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2035年のAI推論市場―コード生成が最大需要になる構造と主要6社
ABI Researchが予測する2035年のAI推論需要46GWと、コード生成が最大需要になる構造、主要6社、電力制約を整理します。
サマリー
ABI Researchは、クラウドAI推論の電力容量需要が2026年の約2GWから2035年には46GW超へ拡大し、2033年にAI学習を上回ると予測している。そのうちコード生成は2035年に23.6GW、全推論需要の約51.3%を占める見通しである。
この予測が示す本質は、AI産業の中心が「巨大な基盤モデルを一度つくる競争」から、「完成したAIを大量かつ継続的に働かせる競争」へ移ることにある。特にAIコーディングエージェントは、リポジトリの読解、コード生成、実行、テスト、エラー解析、修正を反復するため、通常の文章生成より多量の推論処理を必要とする。
ただし、46GWや2033年という値は実測結果ではなく、ABI Researchの長期予測である。公開資料では予測モデルの詳細な前提が開示されていないため、方向性の信頼度は比較的高いが、数値と到達時期には大きな不確実性が残る。
評価時点:2026-09-01 JST
記事の結論
この記事を一言で表すと、次の通りである。
AIの計算需要は、モデルを「つくる」学習から、モデルを社会で「働かせ続ける」推論へ重心が移り、その最大用途としてコード生成とAIエージェントが浮上する。
ABI Researchの公開資料と照合すると、記事に掲載された主要数値は一次情報と一致する。
| 指標 | ABI Researchの予測 | 検証結果 |
|---|---|---|
| AI推論用電力容量 | 2026年 約2GW → 2035年 46GW超 | 一次情報と一致 |
| 推論が学習を上回る時期 | 2033年 | 一次情報と一致 |
| コード生成 | 2035年 23.6GW | 一次情報と一致 |
| コード生成の構成比 | 約51.3% | 23.6÷46で「半分超」は妥当 |
| AI学習用容量 | 2035年 約36GW | 推論より小さいが引き続き拡大 |
| テキスト生成 | 2035年 約7GW | コード生成との差が拡大 |
AIの「学習」と「推論」
AIの計算処理は、大きく学習と推論に分かれる。
| 項目 | 学習(Training) | 推論(Inference) |
|---|---|---|
| 意味 | 大量のデータからモデルを構築・調整する | 完成したモデルに回答や判断をさせる |
| 例 | 基盤モデルの事前学習、企業データによる微調整 | 質問応答、コード作成、画像生成、診断支援 |
| 実行頻度 | 数週間から数カ月単位の大規模処理 | 世界中で毎秒繰り返される |
| 計算特性 | 1回当たりの計算量が極めて大きい | 1回は比較的軽いが、回数が膨大 |
| 将来の中心 | 基盤モデル学習と企業別微調整 | エージェントによる継続的・自律的処理 |
料理に例えると、学習は「料理人の修業」、推論は「注文を受けて実際に料理を提供すること」である。サービス利用者とAIエージェントが増えれば、一度の修業よりも、毎日繰り返される調理に多くの計算資源と電力が必要になる。
なぜコード生成が最大用途になるのか
コード生成が大きな電力需要を生む理由は、単にプログラムの文章が長いからではない。AIコーディングエージェントが、一つの仕事を完了するまでに多数の推論を反復するためである。
典型的な処理は次のようになる。
- 要件と既存システムを理解する
- 関連ファイルや依存関係を探索する
- コードを生成・編集する
- コードを実行してテストする
- エラーや失敗原因を解析する
- 修正して再テストする
- セキュリティ、性能、品質を別のAIで検査する
- 人間または別のエージェントへ結果を提出する
この過程では、リポジトリ全体を扱う長い入力文脈、ツール呼び出し、複数エージェントの並列実行、試行錯誤のループが発生する。したがって、将来の「コード生成需要」とは、短いプログラムを一度書く処理ではなく、AIが企業システムの開発、テスト、移行、監視、修復を継続的に担当する計算需要を意味する。
ABI Researchは、コード生成が2027年にテキスト生成を抜き、年平均52%で成長し、2035年に23.6GWへ達すると予測している。
AI推論プラットフォームとは何か
AI推論プラットフォームは、企業がGPUサーバーやモデル配信基盤を一から構築しなくても、AIモデルを本番環境で安定運用できるようにするサービスである。
主な機能は次の通りである。
- GPUやAIアクセラレーターの割り当てとスケジューリング
- モデルの配備、更新、負荷分散
- 応答速度、処理量、コストの最適化
- 複数クラウドや複数GPU間の切り替え
- モデルの微調整、評価、監視
- APIとしてのAIモデル提供
AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどが巨大な計算資源を供給するのに対し、専門推論プラットフォームは、その上でモデルを効率的に走らせる「運用・最適化層」に位置する。
ABI Researchが挙げた主要6社
| 企業 | 主な強み | 技術・事業上の注目点 |
|---|---|---|
| Baseten | 企業向けの高性能推論基盤 | vLLM、SGLang、TensorRT-LLMに独自最適化を加え、学習・微調整にも領域を拡大 |
| Fireworks AI | 低遅延・高スループット | ABIによれば400以上のモデル、1日15兆トークン、1万超の顧客。Microsoft Azureとも連携 |
| FriendliAI | リアルタイムAIエージェント | 長文脈、ツール呼び出し、低遅延ストリーミングに重点。Samsung SDSなどと連携 |
| Modular | ハードウェア非依存のAI基盤 | Mojo言語とMAX推論エンジンを開発。NVIDIA、AMD、Arm、Apple Siliconを共通コードで支援。Qualcommが買収 |
| DeepInfra | オープンモデルの低コスト配信 | 190以上のモデル、キャッシュ最適化、高スループットを重視 |
| Novita AI | サーバーレスAPIと専用エンドポイント | 200以上のモデルを提供し、オープンソースおよびAIエージェント向け基盤を拡充 |
重要なのは、この6社が「世界のAI企業上位6社」ではない点である。これはABI Researchが専門推論プラットフォームとして評価した6社であり、NVIDIA、AWS、Microsoft、Google、OpenAI、Anthropic、CoreWeaveなどは、半導体、ハイパースケーラー、モデル提供者、ネオクラウドといった別の階層に位置する。
この1年で起きた三つの構造変化
1. 買収と垂直統合
推論市場では、計算資源、モデル開発、評価、配備、監視を一社で提供するための買収が進んでいる。ABI Researchは、CoreWeaveによるWeights & Biases、NebiusによるClarifai、CloudflareによるReplicate、QualcommによるModularなどを例示している。
独立した推論専業企業は、巨大クラウドやモデル企業と競争するため、より広い技術スタックを持つ必要がある。
2. 推論専業からライフサイクル全体へ
多くの企業が推論だけでなく、ファインチューニング、強化学習、評価、監視へ事業範囲を広げている。単なる「モデル実行場所」では価格競争に陥りやすいため、企業固有のAIを構築・運用する一連の環境を提供する方向へ移っている。
3. オープンモデルの利用拡大
ABI Researchは、企業の生成AI支出に占めるオープンモデルの割合が、2025年の35%から2026年には55%へ上昇すると予測している。オープンモデルは、コスト、カスタマイズ性、データ管理の面で有利だが、これはABI独自の市場推計であり、確定した実績統計ではない。
46GWはどれほど大きいのか
46GWが1年間を通して常時稼働すると仮定した単純換算は、次の通りである。
\[ 46\,\mathrm{GW} \times 8,760\,\mathrm{時間} \approx 403\,\mathrm{TWh/年} \]
ただし、この403TWhは実際の年間消費電力量を示すものではない。設備利用率、待機時間、冷却・電源損失、PUE(電力使用効率)を考慮していない上限的な換算である。また、ABIの46GWがIT機器の負荷だけを指すのか、付帯設備まで含むのかは公開資料だけでは完全には確認できない。
IEAは、世界のデータセンター全体の年間電力消費を2024年約415TWh、2030年約945TWhと推計している。ABIの46GWと比較するときは、GWが設備容量・瞬間的な電力を、TWhが年間電力量を示すという違いに注意する必要がある。
予測を変える技術要因
需要が急増しても、必要電力が同じ割合で増えるとは限らない。次の技術は下振れ要因になる。
- 量子化による低ビット推論
- 蒸留・小型言語モデルの利用
- Mixture of Expertsによる一部パラメータだけの実行
- KVキャッシュやプロンプトキャッシュ
- Speculative Decodingなどの高速生成
- GPU以外の推論専用ASIC
- 端末内AIとエッジ推論
- 必要なときだけ高性能モデルを呼ぶモデルルーティング
一方、効率化によって単価が低下すると利用回数が増える「ジェボンズのパラドックス」が起き、総電力需要がむしろ増える可能性もある。AIエージェントが24時間動作し、複数エージェントが相互検証するようになれば、1トークン当たりの省電力化を需要増が上回り得る。
推論プラットフォーム企業のリスク
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 巨大企業の垂直統合 | クラウドやモデル企業が推論機能を内製し、専門企業の価値を吸収する |
| 顧客の内製化 | 成長したAI企業が推論基盤を自社運用へ切り替える |
| NVIDIA依存 | GPU価格、供給、CUDA依存が収益性を左右する |
| ハードウェアの多様化 | AMD、独自ASIC、Arm、端末内NPUへの最適化が必要になる |
| エッジへの移行 | 低遅延、プライバシー、通信費を理由にクラウド需要の一部が端末側へ移る |
| 価格競争 | 推論単価の急落によって売上成長と利益成長が一致しない |
| 安全性・責任 | AI生成コードの脆弱性、誤動作、ライセンス問題への対応が必要になる |
ファクトチェック評価
| 主張 | 評価 | 理由 |
|---|---|---|
| 推論需要が2035年に46GWを超える | 🟡 予測として確認 | ABI一次資料に記載。ただし長期モデルの詳細前提は非公開 |
| 推論が2033年に学習を上回る | 🟡 方向性は妥当 | 本番利用回数が学習回数を圧倒する構造だが、年の特定は不確実 |
| コード生成が推論需要の半分を占める | 🟡 数値は確認 | 23.6GW÷46GW≒51.3%。ただし用途分類と普及率に依存 |
| 6社が世界の主要ベンダーである | 🟡 表現に注意 | ABIが評価した専門推論企業6社であり、市場全体の上位6社ではない |
| AIの総電力需要が必ず急増する | 🟡 未確定 | 効率化、電力供給、価格、規制、端末内推論によって変動する |
2035年に向けた5段階シナリオ
以下の確率は、ABI ResearchとIEAの公開資料を基にしたCGTAの推測であり、確定値ではない。
| シナリオ | 推定確率 | 2035年の姿 |
|---|---|---|
| S5:高効率・高普及 | 15% | コード開発・保守が大幅に自動化される一方、専用半導体と省電力化が需要増を吸収。生産性向上が電力負担を上回る |
| S4:ABI予測に近い成長 | 30% | 推論需要が約40~50GWへ拡大し、コード関連が約半分。専門企業の多くは大手クラウド・半導体企業へ統合される |
| S3:利用は急増するが電力は下振れ | 30% | AI利用量は急増するが、量子化、小型モデル、ASIC、キャッシュ最適化により電力需要はABI予測を下回る |
| S2:電力・半導体制約 | 18% | 系統接続、発電設備、GPU供給がボトルネックとなり、オンプレミス、エッジ、端末内AIへの分散が進む |
| S1:投資回収に失敗 | 7% | コード生成の品質、安全性、責任問題が解決せず、大規模導入が停滞。推論需要が大幅に下振れする |
色付けアラート
| 評価軸 | 判定 | コメント |
|---|---|---|
| 普通度 | 🟡 やや異例 | 2026年の約2GWから2035年の46GW超へ約23倍となる急拡大予測 |
| 信頼度 | 🟡 怪しい部分あり | 記事の引用数値は一次資料と一致するが、長期予測の詳細前提は公開されていない |
| 安全度 | 🟡 やや危ない | 電力・系統制約に加え、AI生成コードの脆弱性、誤動作、無許可操作が拡大し得る |
| 発展性 | 🟢 発展性あり | AIエージェント、推論半導体、電力、冷却、モデル最適化の巨大市場につながる |
CGTAの見解
最も重要なのは「2035年に正確に46GWになるか」ではなく、AIの価値と費用の中心が、モデル学習から継続的な推論へ移るという構造変化である。
さらにコード生成は、プログラマーだけの用途にとどまらない。将来のAIエージェントが病院、金融、製造、行政、ブロックチェーンなどの情報システムを操作する際、API、スマートコントラクト、業務フロー、設定ファイルといった「機械が実行できる指示」を生成する。その意味でコードは、AIが現実社会へ作用するための共通言語になり得る。
一方で、AIが生成したコードをそのまま本番環境へ投入すれば、脆弱性や誤作動も機械的な速度で拡散する。したがって、2035年の競争力を決めるのは、単なる生成速度ではなく、テスト、監査、権限分離、実行隔離、人間による最終承認を含む安全な推論基盤である。
出典
- ABI Research: Cloud AI Inference Workload Capacity Consumption to Surpass Training by 2033, Reaching 46 GW by 2035(2026-05-21)
- ABI Research: Inside the Fast-Rising AI Inference Market(2026-07-22)
- ABI Research: AI Inference Workload Capacity Consumption by Type
- IEA: Energy demand from AI
- @IT:2035年、AI推論需要の半分は「コード生成」に(2026-08-27)
注記
- ABI Researchの数値は市場予測であり、将来の実測値ではない。
- 「GW」と「TWh」はそれぞれ電力容量・瞬間負荷と年間電力量を表すため、直接同一視できない。
- 2035年のシナリオ確率はCGTAによる推定であり、ABI ResearchまたはIEAの公式確率ではない。