OBSERVATION NOTE / MDFOOB-HU
ATLAS 20万TPSの意味――Leios・Hydraとの速度比較を正しく読む
LayerZero ATLASの20万TPSを、CardanoのLeiosおよびHydraと、処理対象・レイヤー・決済・指標の違いから比較します。
現在日付: 2026-08-26 JST
1. 結論
LayerZero ATLASの「20万TPS」は、Cardano L1の通常トランザクションを20万件/秒で確定するという意味ではない。
ATLASは、取引所バックエンドとして、
- 注文
- キャンセル
- 約定
- ポジション更新
- 証拠金処理
- 清算
- 決済関連処理
などの市場トランザクションを高速に処理するための能力として、稼働開始時点で200,000 transactions/secを初期プロビジョニングするとLayerZeroが説明している。
したがって、
ATLAS 200,000 TPS vs Leios 数百〜千TPS
という単純比較は適切ではない。
両者は、処理している「仕事」が違うからである。
2. ATLASの20万TPSは何の速度か
ATLASは、LayerZeroがZero上に構築するヘッドレス型取引基盤である。
主な役割は、
注文受付
↓
Matching
↓
Risk
↓
Clearing
↓
Settlementという市場取引処理を一体化することにある。
LayerZeroはATLASについて、
- launch capacity: 200,000 transactions/sec
- median latency: sub-millisecond
を掲げている。
この「transaction」は、一般的なL1送金トランザクションと同義とは限らない。
ATLASの文脈では、特に市場負荷として、
- order submission
- cancellation
- repricing
- liquidation
- margin threshold crossing
のようなイベントを大量に処理する必要がある。
したがってATLASの20万TPSは、取引所内部のmarket workload throughputとして理解するのが最も適切である。
3. なぜLeiosと単純比較できないのか
LeiosはCardano L1のスループットそのものを高める設計である。
Cardanoでは、トランザクションごとのサイズや処理内容の差が大きいため、単純TPSではなく、
TxkB/s = transaction kilobytes per second
という指標が重視されている。
Leiosは、Input Blocksなどを用いてトランザクションデータの取り込みと検証を並列化し、L1の帯域を増やす。
つまりLeiosの対象は、
Cardano L1に最終的に取り込まれるトランザクションデータ量
である。
一方ATLASは、
市場取引処理を高速化する専用インフラ
である。
この違いは、証券取引所のmatching engineと、最終決済ネットワークを比較するのに近い。
4. Leiosのスループット
CIP-0164では、Leios性能をTxkB/sで扱っている。
平均トランザクションサイズによってTPS換算値は大きく変わる。
概念的には次のようになる。
| Leios throughput | 平均サイズTX換算 | 小型TX換算 |
|---|---|---|
| 150 TxkB/s | 約100 TPS | 約500 TPS |
| 200 TxkB/s | 約133 TPS | 約667 TPS |
| 250 TxkB/s | 約167 TPS | 約833 TPS |
| 300 TxkB/s | 約200 TPS | 約1,000 TPS |
| 350 TxkB/s | 約233 TPS | 約1,167 TPS |
このため、
Leios = 何TPS
という単一数字で表現するより、
TxkB/s + transaction size
で考える方が正確である。
CardanoのeUTXOでは1つのトランザクションが複数の入力・出力や複雑な処理を含めるため、TPSだけでは処理能力の比較を誤りやすい。
5. Hydraはさらに別の速度
HydraはCardanoのL2 state channelである。
Hydra Headに参加者がUTxOをcommitし、そのHead内部では毎回Cardano L1へトランザクションを書き込まずに高速処理する。
基本構造は、
Cardano L1
↓ commit
Hydra Head
↓
高速なoff-chain transaction
↓
final state
↓
Cardano L1となる。
したがってHydraのTPSは、
Hydra Head内部のoff-chain execution throughput
である。
これはATLASと役割的にはLeiosより近い。
両者とも、
L1にすべての細かな処理を直接載せるのではなく、高速な実行環境で大量処理する
という考え方を持つ。
ただし、Hydraは汎用的なstate channelであり、ATLASは市場取引専用に最適化された取引インフラである。
6. 3つをレイヤーで整理する
ATLAS
Trader
↓
Trading Venue
↓
ATLAS
├─ Matching
├─ Risk
├─ Clearing
└─ Settlement
↓
ZeroHydra
Participants
↓
Hydra Head
↓
高速off-chain execution
↓
Final state
↓
Cardano L1Leios
Cardano L1
↓
Input Blocks等による並列化
↓
L1 throughput拡張つまり、
- ATLAS = 取引市場エンジン
- Hydra = 高速L2 execution
- Leios = L1 bandwidth expansion
である。
7. 比較表
| 項目 | ATLAS | Hydra | Leios |
|---|---|---|---|
| 主レイヤー | Exchange infrastructure | L2 | L1 |
| 主目的 | 市場取引高速化 | 特定参加者間の高速処理 | Cardano全体の容量増大 |
| TPSの意味 | 市場transaction処理 | Head内transaction | L1 transaction |
| 主な対象 | Orders / Matching / Risk / Clearing | Off-chain UTxO transactions | L1 transaction data |
| 決済先 | Zero | Cardano L1 | Cardano L1 |
| 主な性能指標 | TPS / latency | TPS / confirmation latency | TxkB/s |
| 並列化 | 市場処理・Zero側構成 | 複数Head | Input Blocks等 |
| 汎用性 | 金融市場特化 | 比較的汎用 | L1全体 |
| 現在の成熟度 | 初期段階 | Mainnet利用可能 | 開発中 |
| 強み | CEX級低遅延市場処理 | 高速・低遅延L2 | L1の分散性を維持して容量拡張 |
8. 「ATLASはLeiosの1000倍速い」は誤り
仮に、
- ATLAS: 200,000 TPS
- Leios: 数百TPS
という数字だけを見ると、数百倍〜1000倍程度の差に見える。
しかしこれはミスリーディングである。
ATLASの20万件には、
- 注文
- キャンセル
- 価格更新
- 証拠金処理
- ポジション更新
など、最終決済前の市場処理が大量に含まれ得る。
一方Leiosで数えるtransactionは、Cardano L1上で処理・検証・保存される台帳トランザクションである。
たとえるなら、
NASDAQのmatching engineが処理する注文イベント数
と、
銀行・証券決済インフラが最終決済する件数
を直接比べるようなものである。
両者は重要だが、同じメトリクスではない。
9. ATLASとHydraは比較しやすいが、それでも別物
役割だけを見ると、
ATLAS ↔ Hydra
の方が比較しやすい。
理由は両者とも高速execution layerとして機能するからである。
Hydra
限定されたHead参加者
↓
高速UTxO取引
↓
最終状態をL1へATLAS
Trader
↓
Trading Venue
↓
高速Matching / Risk / Clearing
↓
Zeroへ決済ただしHydraはstate channel、ATLASは金融市場専用取引エンジンであり、参加モデルもユースケースも異なる。
10. Hydraの「100万TPS」には注意
Hydraについて過去に「100万TPS」という数字が広く流通したが、Hydra公式FAQはこの数字を単純な実性能として扱うことに慎重である。
複数Headの処理能力を単純合算する理論値と、1つの実運用システムでの継続性能は同一ではない。
Hydra性能は、
- Head参加者数
- network latency
- UTxO構造
- transaction complexity
- hardware
などに依存する。
したがって、
Hydra = 100万TPS
という一行表現も、ATLASの20万TPS同様、前提条件なしでは正確ではない。
11. 本当に見るべきなのは「どの層を高速化するか」
ブロックチェーンの性能比較では、TPSだけを見るより、
どのレイヤーの何を高速化しているのか
を見る方が重要である。
概念的には、
ユーザー体験
↑
ATLAS
市場Matching / Clearing
↑
Hydra
高速Application Execution
↑
Leios
L1 Throughput
↑
Cardano L1
Settlement / Securityと整理できる。
これは同一ネットワーク上の積み重ねを示す図ではなく、機能的な役割比較である。
12. 将来の金融インフラでは全部必要
将来のオンチェーン金融に必要なのは、単一の巨大なTPS数字ではない。
必要になるのは、
高速注文処理
+
低遅延execution
+
大量L1 settlement
+
分散型validation
+
流動性
+
安全なfinalityである。
この観点では、
| 技術 | 担当する課題 |
|---|---|
| ATLAS | 注文・約定・リスク・清算 |
| Hydra | 高速off-chain execution |
| Leios | L1 bandwidth / throughput |
| Cardano L1 | Settlement / Security |
という役割分担として理解できる。
13. BWtake視点での要点
ATLASの20万TPSを見て、
「Cardanoより1000倍速い」
と評価するのは適切ではない。
正確には、
ATLASは金融市場内部の大量イベントをCEX級の低遅延で処理することを狙う専用市場インフラである。
一方、
LeiosはCardano L1そのものの帯域を増やす。
そして、
HydraはCardano L1の外側で高速executionを可能にする。
この3つは競合技術というより、異なるレイヤーに対するスケーリング解である。
特にCardanoは、
Hydra
+
Leios
+
Cardano L1という複層型のスケーリングを採ることで、
- 高速execution
- 大容量L1
- 分散性
- セキュリティ
を分業する戦略と理解できる。
Fact Check / 留意事項
- ATLASの200,000 TPSはLayerZero公式が示すlaunch capacityであり、本番長期運用実績ではない。
- ATLASのtransactionは市場処理文脈であり、Cardano L1 transactionと完全に同義ではない。
- LeiosはTPSよりTxkB/sで評価する方が適切。
- Hydraの性能はHead構成・ネットワーク条件・TX内容に依存し、単一TPS値で一般化できない。
- 「Hydra 100万TPS」は条件付き・集約的な理論値として扱うべきで、単一Headの恒常的実性能とは区別が必要。
- ATLAS、Hydra、Leiosは異なるレイヤーを高速化するため、単純なTPSランキングには適さない。
Sources
Primary Sources
- LayerZero, "Atlas"
- https://layerzero.network/atlas
- LayerZero, "Introducing Atlas"
- https://layerzero.network/blog/introducing-atlas
- Cardano Improvement Proposal, CIP-0164: Leios
- https://cips.cardano.org/cip/CIP-0164
- Cardano Developer Portal, Hydra
- https://developers.cardano.org/docs/developers/curriculum/production/hydra/
- Hydra Head Protocol Documentation, FAQ
- https://hydra.family/head-protocol/docs/faqs
- Hydra GitHub / Benchmarks and Releases
- https://github.com/cardano-scaling/hydra
Epoch Reference
- Cardano epoch reference
- EPOCH 651: 2026-08-23 06:44:51 JST - 2026-08-28 06:44:51 JST
FBL Observation
TPSという単一指標は、ブロックチェーンの進化を比較するには increasingly insufficient である。
今後は少なくとも、
- execution throughput
- settlement throughput
- data throughput
- latency
- finality
- decentralization
- state growth
- security assumptions
を分けて評価する必要がある。
ATLAS、Hydra、Leiosの比較は、その典型例である。
速さの競争から、役割分担されたスケーリング・アーキテクチャの競争へ。
これが2026年以降の主要L1/L2・オンチェーン市場インフラを見る上で重要な観測軸になる。