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OBSERVATION NOTE / MDFOOB-HU

Solana SGP-0002インフレ削減加速とガバナンス正統性の分析

SGP-0002によるディスインフレ率15%から30%への加速を、供給抑制、バリデータ収益、ステーキング、セキュリティ予算、ガバナンス正統性から分析します。

サマリー

SolanaのSGP-0002は、最終的な長期インフレ率1.5%を変更する提案ではない。現在のインフレ率を毎年引き下げる速度、すなわちdisinflation rateを15%から30%へ倍増させ、1.5%に到達するまでの期間を約5.7年から約2.8年へ短縮する提案である。

この政策は、SOLの将来供給を抑えるという意味では保有者に有利に見える。一方で、新規発行SOLは単なる「売り圧力」ではなく、バリデータとステーカーへ支払われるネットワークのセキュリティ予算でもある。そのため、発行削減を急ぎすぎれば、小規模バリデータの採算悪化、ステーキング利回り低下、バリデータ集中につながる可能性がある。

SOL Strategies CEO Michael Hubbardの「時期尚早」という批判は、この点で一定の合理性を持つ。ただしSOL Strategies自身がバリデータ運営、ステーキング、SOLトレジャリーを事業の柱としており、発行報酬減少に直接利害を持つ点は割り引いて読む必要がある。

さらに重要なのはSGP-0003をめぐる棄権票の扱いである。Solana Foundation公式GitHubでは、SGP-0001 Constitution本文と現行READMEの間に、Abstainを可決判定の分母へ含めるかどうかについて不整合が確認できる。今回の一連の投票は、Solanaが高速な政策適応型ガバナンスへ移行する一方、手続き的正統性と制度仕様の整合性に課題を残したことを示している。

CGTAの評価は「方向性には賛成、速度にはやや慎重」である。今後はSOL価格そのものよりも、Fee+MEVが発行削減分をどこまで代替できるか、ステーキング率、アクティブバリデータ数、ステーク集中度を追うべきである。


1. 何が変わるのか

SGP-0002は「インフレ率を30%にする」提案ではない。

変更対象は、現在のインフレ率を毎年どれだけ低下させるかを示すdisinflation rateである。

従来は15%、新制度では30%となる。

時点従来15%低下新30%低下
2026年6月時点3.82%3.82%
1年後3.24%2.86%
2年後2.75%1.99%
3年後2.33%1.50%
4年後1.96%1.50%
5年後1.68%1.50%
6年後1.50%1.50%

したがって本質は、

長期インフレ率1.5%は維持したまま、そこへ到達する速度だけを約2倍にする

ことである。

SGP-0002では、今後6年間における新規発行SOLを従来スケジュール比で約1,890万SOL抑制し、将来供給量を約2.6%削減すると試算されている。


2. Hubbardの「時期尚早」という批判

SOL Strategies CEO Michael Hubbardの主張を要約すると、

Solanaは、発行補助金をこれほど早く削減できるほど成熟したネットワークなのか。

という問いになる。

これは単純な価格論ではない。

ブロックチェーンのバリデータ収益は概念的には次のように整理できる。

Validator Revenue
= Issuance
+ Transaction Fees
+ Priority Fees
+ MEV / Jito Tips

SGP-0002はこのうちIssuanceを急速に減らす。

したがって、

Issuance ↓

を進めてもネットワークのセキュリティを維持するには、

Fees + MEV ↑

が必要になる。

SOL価格上昇や手数料収入増加が発行報酬減少分を補えなければ、バリデータ収益性が悪化する。

Galaxy Researchも投票前から同様の論点を提示しており、特に発行収益への依存度が高いバリデータには負担となり得ると指摘していた。


3. 「発行SOL = 売り圧力」ではない

SGP-0002を評価する上で最も注意すべき点の一つである。

新規発行されたSOLはステーキング報酬として配布されるが、そのすべてが市場で売却されるわけではない。

新規発行SOL
    ↓
ステーキング報酬
    ↓
再ステーキング
バリデータ運営費
売却

多くのSOLが再びステーキングへ回る場合、

Gross Issuance

と、

Actual Sell Pressure

は一致しない。

したがって、

1,890万SOLの発行削減 = 1,890万SOLの売り圧力削減

とは言えない。

価格への影響を考えるなら、単純なgross issuanceよりも、実際に流動市場へ出るnet liquid issuanceを見る必要がある。

この点についてはHubbardの批判に合理性がある。


4. それでもSGP-0002賛成派にも論理がある

初期のSolanaは、高いインフレによってネットワーク参加を促す必要があった。

主な目的は、

  • バリデータ増加
  • ステーキング促進
  • セキュリティ予算の確保
  • ネットワークのbootstrapping

である。

しかしネットワークが成熟すれば、永続的に新規発行へ依存する必要はない。

理想的には、

初期
Inflation subsidy >>> Fees + MEV

成熟後
Inflation subsidy <<< Fees + MEV

へ移行していく。

Solanaでは2026年時点でtransaction fee、priority fee、MEV、Jito tipsなど、実際のネットワーク活動に由来する収益が拡大している。

賛成派の立場から見ると、

Solanaは発行補助金中心のブートストラップ段階から、blockspace需要がセキュリティ予算を支える成熟段階へ移行すべきである。

という政策になる。

したがって争点は、方向性そのものよりも移行速度である。


5. 本質はSecurity Budget

ブロックチェーンでは、誰かがバリデータに報酬を支払う必要がある。

概念的には、

Security Budget
= Token Issuance
+ Fees
+ MEV

である。

SGP-0002によってIssuanceを速く削減した結果、FeesとMEVが十分成長しなければ、

Validator Profitability ↓

となる。

その場合、

  • 小規模バリデータの退出
  • 大規模バリデータへの集約
  • ステーキングサービスの集中
  • バリデータ間の収益格差拡大

につながる可能性がある。

したがってSGP-0002が成功する条件は、単にSOL価格が上昇することではない。

実際のネットワーク利用による収益が発行報酬減少を代替できること

が必要である。


6. バリデータ報酬低下が必ずセキュリティ低下になるわけではない

ここも重要である。

ネットワーク利用が増加すれば、発行報酬が低下してもFeeとMEVが増加し、バリデータ収益を維持できる。

初期Solana
Inflation subsidy
████████████████
Fees + MEV
██

成熟Solana
Inflation subsidy
████

Fees + MEV
██████████████

この転換が成功すれば、SGP-0002は単なる供給削減策ではなく、

Solanaの経済的自立

を意味する。

逆にFeeとMEVが十分増加しなければ、Hubbardの「時期尚早」という評価が正しかったことになる。


7. SOL Strategiesの発言には利益相反もある

Hubbardの主張には一定の合理性がある一方、SOL Strategiesは中立的な第三者ではない。

同社の主な事業は、

  • Solanaバリデータ運営
  • ステーキングサービス
  • SOLトレジャリー

である。

したがってインフレ率・ステーキング報酬の変更は同社業績へ直接影響する。

各主体の利害を整理すると次のようになる。

主体SGP-0002による主な影響
長期SOL holder希薄化低下は有利
Stakerstaking yield低下
Validatorissuance収益低下
高MEV validator相対的に耐性が高い
小規模validator採算悪化リスク
SOL Treasury企業SOL価格上昇なら有利
一般アプリ利用者短期的直接影響は小さい

つまり今回の争点は、供給量だけでなくネットワーク内部の所得分配でもある。


8. 67%可決は実質的な僅差

SGP-0002は可決されたが、圧倒的支持ではない。

最終結果は概ね、

  • 賛成: 67.001%
  • 必要基準: 66.667%
  • 差: 約0.334ポイント

であった。

つまり、

可決ラインを約0.3ポイント上回っただけ

である。

これはSolanaのコミュニティ内部でも、発行削減の加速について意見が大きく割れていたことを示している。

長期的な金融政策に近い変更をこの僅差で実施したことは、今後も議論の対象になる可能性が高い。


9. SGP-0003のAbstain問題

今回の一連の投票では、SGP-0003の結果以上に、投票ルールの解釈問題が重要である。

Hubbardは、棄権票を分母から除外すればSGP-0003の賛成率は約74%となり、可決基準2/3を超えていたと主張した。

実際、Solana Foundationの公式GitHubでは記述の不整合が確認できる。

SGP-0001 Constitution本文

SGP-0001本文では、可決判定の分母について、

For + Against + Abstain

とする記述があり、Abstainを分母に含める。

またquorumについても記述がある。

現行SGP README

一方、現行READMEでは、

For >= 2/3 of For + Against

とされ、

  • Abstainを分母から除外
  • quorumなし

というルールになっている。

整理すると、

公式文書AbstainQuorum
SGP-0001 Constitution本文分母に含むあり
現行SGP README分母から除外なし
現行SGP template分母から除外なし

となる。

この不整合は軽視できない。


10. 「Goalpost moved」批判の意味

ガバナンスでは、結果だけでなくプロセスの正統性が重要である。

特に、

Approval Threshold

の分母定義は、選挙制度で言えば有効票の定義に相当する。

ここが投票途中または投票前後で異なるように見えれば、制度そのものへの信頼性が低下する。

Cardanoに例えるなら、

DRep投票におけるAbstainをActive Voting Stakeの分母へ入れるかどうかが、投票終了後に変わった。

という状況に近い。

したがってHubbardの「ゴールポストが動かされた」という批判は、単なる負け惜しみと片付けるべきではない。


11. ただし初回ガバナンス特有のBootstrap問題もある

一方、今回の投票には特殊事情もある。

SGP-0001はSolana Constitutionそのものを批准する提案であり、SGP-0002やSGP-0003と同時期に投票された。

つまり、

これから成立する憲法を、その憲法自身を含む初回投票へどこまで適用するか。

というbootstrap問題が存在する。

そのため今回の混乱は、必ずしも意図的な操作を意味しない。

推測ではあるが、

新制度の初回運用で、Constitution本文、README、投票実装の整合性が十分に詰め切れていなかった

可能性が高い。

Solana governanceが今後成熟するためには、最優先で修正すべき領域である。


12. SGP-0002可決とMainnet Activationは同じではない

ここも重要なfact checkである。

SGP-0002が可決されたからといって、その瞬間に新しいインフレスケジュールがmainnetで発効するわけではない。

概念的には、

SGP-0002
ガバナンス承認
    ↓
SIMD-0550
技術仕様
    ↓
Client実装
    ↓
Feature Gate
    ↓
Mainnet Activation

という流れになる。

2026-09-03時点で、SIMD-0550は公式GitHub上でReviewステータスとして確認される。

したがって現時点では、

政治的・ガバナンス上の方向性は承認された

一方で、

プロトコル変更の技術的activationは別工程

と区別する必要がある。


13. Cardanoとのガバナンス比較

SolanaとCardanoの違いも鮮明になった。

項目Solana SGPCardano Voltaire
主な投票主体Validator / StakerDRep / SPO / CC
投票力Stake weightedStake weighted
Delegatorの直接影響比較的強いDRep再委任等
技術仕様SIMDCIP等
ガバナンス提案SGPGovernance Action
憲法Solana ConstitutionCardano Constitution
政策決定速度速い比較的慎重
Monetary policy変更比較的積極的非常に慎重
手続き初回運用で不整合露呈制度的分業が強い

Solanaは、

高速適応型ガバナンス

に近い。

Cardanoは、

手続き的正統性・権力分散型ガバナンス

に近い。

現時点でどちらが優れていると断定することはできない。

ただし今回のSGP投票は、Solanaが単なる高速L1から、金融政策と制度設計を持つ政治経済システムへ移行し始めたことを示している。


14. CGTA評価

現時点の評価は、

方向性には賛成、速度にはやや慎重

である。

SGP-0002自体は合理性を持つ。

ネットワークが成熟すれば、

Security Budget:
Issuance
    ↓
Fees + MEV

へ移行することは自然である。

しかし、その前提は実需が継続的に存在することである。

2026年現在のSolanaは高いactivityを持つ一方、

  • memecoin
  • trading
  • MEV
  • speculative activity

への依存もまだ大きい。

市場低迷期にもFeeとMEVが十分なセキュリティ予算を維持できるかについては、まだ十分な実証がない。

したがってHubbardの「時期尚早」という指摘には一定の説得力がある。


15. 今後3年間の5段階シナリオ

以下はCGTAによる推測を含むシナリオ分析である。

Scenario推定確率状況SOLへの影響Validatorへの影響
S515%blockspace需要急増、Fee/MEVがissuance減少を完全代替非常に強い収益維持・分散維持
S430%利用増加と供給抑制が好循環強い大半が存続
S335%供給効果は限定的、yield低下が中心中立一部集約
S215%SOL価格低迷、Fee不足弱い小型validator退出
S15%activity急減、staking低下、validator集中非常に弱いdecentralization悪化

中心シナリオはS3-S4と考える。


16. 今後見るべき指標

SGP-0002が成功したかどうかをSOL価格だけで判断するべきではない。

特に見るべき指標は次の5つである。

指標意味
Total Staked SOL比率staking離れの有無
Active Validator数validator退出の有無
Nakamoto coefficientstake集中度
Fee + MEV / Validator Revenueissuance代替度
SOL実質inflationburnを含む供給成長

特に重要なのは、

(Fees + MEV) / Total Validator Revenue

である。

この比率が上昇し、validator数とstake分散が維持されれば、

SGP-0002はSolana成熟化の成功

と評価できる。

逆に、issuanceだけを削減してvalidator economicsが悪化すれば、

Hubbardの「時期尚早」という批判が正しかった

ことになる。


結論

SGP-0002を、

SOL供給減少 → 価格上昇

という単純なニュースとして読むのは不十分である。

より重要なのは次の3点である。

  1. Solanaがinflation-funded securityからeconomic-activity-funded securityへの移行を始めた。
  2. その移行速度を2倍にしたことがnetwork maturityに見合っているかは、まだ実証されていない。
  3. 初の拘束的ガバナンスで、Abstainの扱いなど制度仕様の不整合が露呈した。

SGP-0002は、トークン供給政策だけの話ではない。

Solanaが今後、

高速なL1ネットワーク

から、

持続可能な経済制度とガバナンス制度を備えた分散型プラットフォーム

へ進化できるかを試す最初の大型政策実験の一つと考えるべきである。


出典・情報源

  • Solana Foundation, SGP-0002: Double Disinflation

https://github.com/solana-foundation/solana-governance-proposals/blob/main/proposals/sgp-0002-double-disinflation.md

  • Solana Foundation, SIMD-0550: Double Disinflation

https://github.com/solana-foundation/solana-improvement-documents/blob/main/proposals/0550-double-disinflation.md

  • Solana Foundation, SGP-0001: Solana Constitution

https://github.com/solana-foundation/solana-governance-proposals/blob/main/proposals/sgp-0001-solana-constitution.md

  • Solana Governance Proposals README

https://github.com/solana-foundation/solana-governance-proposals

  • Galaxy Research, Solana SGP-0002 / SGP-0003 governance and token economics analysis
  • The Block, Solana validator fee and inflation-cut analysis, 2026-08-31
  • Solana Compass, SGP-0002 voting result
  • CoinPost, 「ソラナのインフレ削減加速は時期尚早」、2026-09-03
  • Cardano Epoch project reference: Epoch 653 = 2026-09-02 06:44:51 JST - 2026-09-07 06:44:51 JST