OBSERVATION NOTE / MDFOOB-HU
Chain Security Loss Index(CSLI-Net)レポート v1.0――メジャー10チェーンの資産損失耐性をどう測り、どう比較するか
CSLI-Netの定義と集計範囲、データ限界を整理し、主要10チェーンのTVL ExposureとNet Loss、損失率、Confidenceを比較します。
メジャー10チェーンの資産損失耐性をどう測り、どう比較するか
作成日:2026-08-17 JST
Executive Summary
ブロックチェーンの安全性を比較するとき、単純な「ハッキング総額」や「累積損失÷現在TVL」だけでは公平な比較が難しい。
Ethereumのように長期間・巨大TVLを抱えてきたecosystemは絶対損失額が大きくなりやすい。一方、Suiのように運用歴が短いecosystemでは、一件の巨大事故が生涯統計を大きく歪める。また、hack後にTVLが低下すると「累積損失÷現在TVL」が機械的に悪化するという問題もある。
そこで本稿では、
\[ \boxed{ CSLI_{Net}= \frac{\sum(\text{Gross hacked}-\text{Returned}-\text{Recovered}-\text{Compensated})} {\int TVL(t)\,dt} } \]
を用いる。
分母は TVL Exposure、単位は USD-year。
この指標は、
そのチェーンがこれまで何ドル・年の資産を預かり、そのうち最終的に何ドルが顧客損失として残ったか
を表す。
さらに、
$1MのTVL Exposureを1年間抱えた場合、歴史的に何ドルのNet Customer Lossが発生したか
まで変換できる。
本稿は、方法論を整理した旧v0.2と、10チェーンの暫定最終比較を行ったv1.0を統合したもの。
ただし重要な研究原則として、
完全に裏付けできない10チェーン開始以来CSLI-Netを、見た目を整えるために推測で埋めない。
v1.0では、数値を出せる箇所はレンジまたはlower boundで示し、未確定性はConfidenceとして明示する。
1. CSLI-Netの定義
1.1 基本式
\[ \boxed{ CSLI_{Net} = \frac{\sum Net\ Customer\ Loss} {\int TVL(t)\,dt} } \]
ここで、
\[ Net\ Customer\ Loss = Gross\ Hacked - Returned - Recovered - Compensated \]
とする。
ただし、Returned、Recovered、Compensatedが同一資産を指す場合、二重・三重控除しない。
最終的に重要なのは、
事故後にユーザーへ戻らなかった実質的損失
である。
1.2 TVL Exposure
分母は現在TVLではなく、
\[ TVL\ Exposure = \int_{t_0}^{t_1}TVL(t)\,dt \]
とする。
単位は、
\[ USD\text{-}year \]
である。
日次TVLを用いる場合、実務上は台形積分する。
\[ Exposure = \sum_{i=1}^{n} \frac{TVL_{i-1}+TVL_i}{2} \frac{t_i-t_{i-1}}{365.2425} \]
これにより、
どれだけの資産を、どれだけ長期間預かってきたか
を評価できる。
1.3 $1M-yearあたり損失
例えば、
\[ CSLI_{Net}=0.20\% \]
なら、
\[ 1,000,000\times0.002=2,000 \]
なので、
$1M TVL-yearあたり$2,000の歴史的Net Customer Loss
に相当する。
これは機関投資家、risk manager、DeFi保険の観点からも理解しやすい表示方法である。
2. CSLI-Netの優位性
2.1 累積ハック額より公平
Ethereumのように長期間・巨大TVLを抱えてきたecosystemは、当然ながら累積hack額も大きくなりやすい。
しかし、
$4Bを巨大TVLで長期間預かったchain
と、
$200Mを小規模TVLで短期間預かったchain
をabsolute lossだけで比較するのは不公平である。
CSLI-Netでは、資産量と時間の両方を分母に入れる。
2.2 「累積損失÷現在TVL」の歪みを軽減
現在TVLは単なるsnapshotである。
hack後に資金流出が起きれば、
- exploit発生
- TVL流出
- 現在TVL低下
- 累積損失÷現在TVLがさらに上昇
という歪みが起こる。
CSLI-Netは過去のTVL Exposureを積分するため、この問題を軽減する。
2.3 長寿命chainとyoung chainを比較しやすい
若いchainでは、一件の巨大事故が統計を大きく左右する。
一方、長寿命chainは長期間の安全運用実績を分母へ蓄積できる。
CSLI-Netでは、
chain年齢
ではなく、
資産量×運用時間
を評価できる。
2.4 GrossではなくNetを使う
顧客保護を評価するなら、
- attackerが抜いた額
- 返還された額
- freeze / recoveryできた額
- treasuryやinsuranceで補填された額
を分ける必要がある。
したがって、
\[ Gross\ Loss \neq Net\ Customer\ Loss \]
である。
2.5 Recovery capabilityを評価できる
hackが発生しても、
- freeze
- recovery
- reimbursement
- insurance
- treasury補填
によって最終顧客損失が小さくなる場合がある。
CSLI-Netは、
事故を防ぐ力
だけでなく、
事故後に顧客損失を抑える力
も反映できる。
3. 集計scope
含める
- DeFi protocol exploit
- lending protocol exploit
- AMM / DEX exploit
- bridge exploit
- protocol smart contract vulnerability
- oracle exploit
- protocol design flawによる顧客資産損失
原則除外
- CEX hack
- centralized custodian破綻
- 個人wallet秘密鍵流出
- phishing
- SIM swap
- malware
- off-chain fraud
- 単純rug pull
例えば、
- Mt.Gox
- DMM Bitcoin
- CEX hot wallet exploit
はBitcoinを扱っていてもBitcoin protocol / Bitcoin DeFiの脆弱性ではないため除外する。
同様に、wallet-level incidentをDeFi TVLで割ることもしない。
4. Safety事故とAsset-loss事故を分ける
CSLI-NetはAsset-lossを測る指標である。
したがって、
L1 Safety failure
と
Net Customer Loss
を混同しない。
native tokenの不正mintはL1 Safety上は重大だが、既存depositorが同額を失ったとは限らない。
最終的なchain security評価では、
- Availability
- Safety
- Asset-loss
を独立軸として残す。
5. データ基盤
5.1 DefiLlama Hacks
DefiLlamaのHacks databaseでは、
- Total Hacked
- Returned Funds
- Net User Loss
をprotocol単位で分離している。
したがってCSLI-Net numeratorを再構築する基礎データが存在する。
5.2 Historical TVL
DefiLlamaのhistorical chain TVL系列を利用すれば、
\[ \int TVL(t)\,dt \]
を日次データから再現できる。
5.3 Immunefi ecosystem comparison
Immunefiは2020〜2025年について、ecosystem lossを年平均TVLで補正して比較している。
この考え方はCSLIの1年単位版に近い。
6. 現時点での限界
6.1 Chain別開始以来Net Lossが完成データとして存在しない
protocol別Net User Lossは確認できても、
10チェーン別の開始以来Net Loss
として完成されたtableが存在するわけではない。
protocol名、chain、classification、Net User Lossをjoinして再集計する必要がある。
6.2 Multi-chain exploit
multi-chain protocolでは、どのchainへ何ドル帰属させるかが問題になる。
v1.0では、
Rule A
chain別損失額が分かる場合、その金額のみ帰属。
Rule B
chain別内訳不明なら、shared multi-chain lossとして別枠。
Rule C
特定chain側contractが侵害点なら、そのchainへ帰属。
とする。
6.3 Compensationの価値評価
token補償の場合、
配布額面 = cash recovery
とは限らない。
したがって、
- cash-equivalent loss
- economic compensated loss
を分ける必要がある。
6.4 「未確認 = 0」ではない
Cardano、XRPL、TRONなどでは巨大loss aggregateが見つからないが、
\[ NetLoss=0 \]
の証明ではない。
低CSLI候補ではあっても、exact value確定まではConfidenceを下げる。
6.5 Polkadotはecosystem再構築が必要
Polkadot DeFiはRelay Chain単体ではなく、
- Hydration
- Acala
- Moonbeam
- Bifrost
- その他parachain
へ分散している。
したがって、
\[ TVL_{Polkadot} = \sum TVL_{Parachain} \]
として評価する必要がある。
7. 2024–2025 同一windowのCSLI-Gross proxy
同じwindowで比較しやすいEthereum、Solana、BNB Chainでは、年平均TVLとannual gross lossから次のproxyが得られる。
| Chain | 2024平均TVL | 2025平均TVL | 2年Exposure | Gross Loss | CSLI-Gross | $1M-year当たり |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Solana | $5.50B | $8.52B | $14.02B-year | $62.2M | 0.444% | $4,435 |
| Ethereum | $42.87B | $70.02B | $112.89B-year | $555.6M | 0.492% | $4,921 |
| BNB Chain | $4.49B | $5.97B | $10.46B-year | $77.6M | 0.742% | $7,420 |
これはNetではなくGross proxy。
しかし、
Availability riskとAsset-loss riskは別物
であることを示す重要な比較である。
8. CSLI-Net v1.0 最終比較表
| Chain | TVL Exposure $B-year | Gross Hacked | Returned | Recovered | Compensated | Net Loss | CSLI-Net | $/1M-year | Confidence |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Bitcoin DeFi | 約6–9 | 約$10M級* | 小 | 未確定 | 未確定 | $0–10M | 0–0.17% | $0–1,670 | C |
| Ethereum | 約280–330 | ≥$4.25B | 数億ドル規模 | 数億ドル規模 | Wormhole等で大規模補填 | 約$2.2–2.8B | 0.67–1.00% | $6,700–10,000 | B− |
| BNB Chain | 約35–45 | ≥$2.08B | 一部 | 一部 | 一部 | 約$0.5–0.8B | 1.11–2.29% | $11,100–22,900 | C+ |
| Solana | 約25–30 | ≥$0.86B | ≥$14.5M | 一部 | Wormhole約$320Mを実質全額補填 | 約$0.35–0.45B | 1.17–1.80% | $11,700–18,000 | B |
| XRP Ledger | 約0.10–0.15 | 大型native DeFi loss未確認 | — | — | — | $0–0.5M相当の上限未確定域 | 0–0.50% | $0–5,000 | C− |
| Cardano | 約0.8–1.1 | 大型native DeFi loss未確認 | — | — | — | $0–1M程度の未確定域 | 0–0.13% | $0–1,250 | C+ |
| TRON | 約28–35 | 統一aggregateなし | 小規模 | 未確定 | 未確定 | $0–10M程度の確認可能域 | 0–0.036% | $0–360 | C− |
| Avalanche | 約11–15 | 約$180M gross attribution | 一部 | Platypus等で一部 | 一部 | 約$40–50M | 0.27–0.45% | $2,700–4,550 | C+ |
| Polkadot ecosystem | 約1.5–2.5 | Acala等 | 大部分回収 | aUSD error mintの大部分回収 | — | 約$1–2M | 0.04–0.13% | $400–1,330 | C+ |
| Sui | 約2.3–2.8 | 約$223M | — | 約$162M回収 | $30M loan + $7M treasury + CETUS補償 | 約$0–24M | 0–1.04% | $0–10,400 | B− |
\* BitcoinではMt.Gox、DMM Bitcoin等のCEX / custody事故を除外。
重要
>
この表のTVL Exposureおよび一部Net Lossはレンジ推定を含む。 v1.0はresearch-grade provisional finalであり、監査済み統計ではない。
9. Sui――Headline LossとNet Lossの差
2025年Cetus exploitでは約$223Mが流出した。
しかしその後、
- 約$162Mがfreeze / recovery対象
- Sui Foundationから$30M loan
- Cetus treasuryから約$7M
- CETUS tokenによる追加補償
が組み合わされた。
単純化すると、
\[ 223-162-30-7 \approx24M \]
したがって、
cash-equivalent residual loss ≈ 最大$24M程度
となる。
token compensationまでeconomic compensationとして認めれば、
economic net customer loss ≈ 0に近づく可能性
がある。
したがってSuiについて、Gross $223MをそのままNet CSLIへ使うのは不適切。
10. Solana――Recovery capabilityが重要
SolanaではWormhole exploitで約$320M相当が流出したが、Jump Cryptoによる補填でユーザー側の欠損が実質補填された。
したがって、
Security failureは巨大
>
しかし
>
Net Customer LossはGrossより大幅に小さい
という構造を持つ。
一方、2026年Drift incidentでは大きなNet User Lossが残るため、開始以来CSLI-Netを押し上げる。
Solanaは、
historical recovery capabilityは非常に強いが、Asset-loss risk自体が消えたわけではない
と評価する。
11. Ethereum――絶対損失最大でも最悪ではない
Ethereumのgross protocol lossは累積で最大級。
しかし、
- 長いDeFi history
- 圧倒的なTVL Exposure
- 多数のprotocol
- 大規模return / recovery事例
を考慮する必要がある。
v1.0では、
\[ CSLI_{Net}\approx0.67–1.00\% \]
の暫定レンジとする。
Absolute hack amountだけでEthereumを最も危険と評価するのは不適切。
12. BNB Chain
BNB Chainは歴史的に巨大incidentが複数存在する。
ただしBNB Token Hubのようなnative asset不正mint型incidentは、
Safety failure
としては重大でも、
Net Customer Loss
と完全には一致しない。
したがってheadline amountを全額そのままCSLI numeratorへ入れない。
v1.0では、
\[ NetLoss\approx0.5–0.8B \]
\[ CSLI_{Net}\approx1.11–2.29\% \]
の暫定レンジとする。
13. Avalanche
Avalancheでは、
- Vee Finance
- Platypus
- Zabu
- Stars Arena
などのexploitが存在する。
一部recoveryを考慮し、
\[ NetLoss\approx40–50M \]
\[ CSLI_{Net}\approx0.27–0.45\% \]
の暫定レンジとする。
14. Polkadot ecosystem
PolkadotはRelay Chainではなくparachain ecosystemで評価する。
AcalaのaUSD incidentではheadline amountと最終的なeconomic lossが大きく異なる。
大部分のerror-minted aUSDが回収・burnされたため、
\[ NetLoss\approx1–2M \]
\[ CSLI_{Net}\approx0.04–0.13\% \]
を暫定レンジとする。
ConfidenceはC+。
15. Cardano
Cardano DeFiには、
- Minswap
- Liqwid
- Indigo
- Djed
- Splash
- WingRiders
などが存在する。
現時点で、
Ethereum・BNB・Solana・Sui級のcatastrophic native DeFi loss
は確認しにくい。
v1.0では、
\[ TVLExposure\approx0.8–1.1B\ USD\text{-}year \]
\[ NetLoss\approx0–1M \]
\[ CSLI_{Net}\approx0–0.13\% \]
とする。
ただし、
CardanoのNet Lossが0と証明されたわけではない。
またCardanoのTVL Exposure自体がEthereum等より小さいため、
DeFi規模が大きくなった後も低CSLIを維持できるか
が次の重要なsecurity testになる。
16. XRP Ledger
XRPLでは大規模native DeFi exploit aggregateは確認しにくい。
しかし、
情報が少ない = 0
とは扱わない。
低CSLI候補だが、TVL Exposureが小さいため一件の中規模incidentでも比率が大きく動く。
ConfidenceはC−。
17. TRON
TRONは大きなTVL Exposureを持つ。
一方、開始以来のprotocol Net Lossを統一taxonomyでまとめたaggregateが不足する。
v1.0では、
\[ CSLI_{Net}\approx0–0.036\% \]
の候補レンジとするが、ConfidenceはC−。
18. Bitcoin DeFi
Bitcoin関連の巨大hackとして知られるMt.GoxやDMM Bitcoin等は、
Bitcoin protocol / Bitcoin DeFi vulnerability
ではない。
したがってCSLI-Netから除外する。
Bitcoin DeFi自体は比較的新しく、v1.0では、
\[ CSLI_{Net}\approx0–0.17\% \]
の暫定レンジ。
19. 現時点の順位感
中央値ベースでは、おおむね次の3群に分けられる。
| Group | Chain | CSLI-Net概況 |
|---|---|---|
| 低損失候補 | TRON / Polkadot / Cardano / XRPL | 概ね0〜0.1%台候補 |
| 中間 | Bitcoin DeFi / Avalanche / Sui / Ethereum | 0.2〜1%程度 |
| 高いhistorical loss | Solana / BNB Chain | 1%超候補 |
ただし、
低CSLI = 最も安全
とは限らない。
TVL Exposureが小さいecosystemではattack surfaceも小さい。
重要なのは、
大きなTVL Exposureになった後も低CSLIを維持できるか
である。
20. Confidence評価
| Grade | 条件 |
|---|---|
| A | 日次TVL実積分 + 全incident Net Loss + recovery確認 |
| B | TVL Exposure高精度、Net Loss一部推計 |
| C | Exposureまたはincident集計にレンジ推定 |
| D | Gross Loss中心 |
| E | 比較不能 |
v1.0ではConfidenceを必ず併記する。
数値だけでなく、
その数値をどこまで信頼できるか
を示すためである。
21. Availability × Safety × Asset-loss
前回のL1事故率とCSLI-Netを統合すると、chain securityを3軸で評価できる。
| 軸 | 指標 | 問い |
|---|---|---|
| Availability | L1重大停止 / chain-year | チェーンは止まらないか |
| Safety | consensus / finality / monetary invariant failure | 台帳・経済的不変条件は壊れないか |
| Asset-loss | CSLI-Net | 預けたユーザー資産は失われにくいか |
一つの総合点だけに圧縮すると、chainの性格が見えにくくなるため、3軸は独立表示する方が望ましい。
22. 3軸から見た代表chain
Cardano
- Availability:強い
- Safety:強い
- Asset-loss:低CSLI候補
- 課題:TVL Exposureがまだ小さい
次のsecurity testは、
DeFi規模が数倍〜数十倍になった後も低CSLIを維持できるか
である。
Solana
- Availability:歴史的には弱い
- Safety:比較的強い
- Asset-loss:historically高め
- Recovery capability:非常に強い
Availability riskとAsset-loss riskが独立している典型例。
Ethereum
- Availability:強い
- Safety:強い
- Asset-loss:中位
- TVL Exposure:圧倒的に大きい
Ethereumのsecurity評価では、
莫大な資産を長期間預かってきた実績
そのものを分母として評価する必要がある。
23. 現時点で分かったこと
① CSLI-Netの考え方は有用
\[ \frac{NetLoss}{\int TVLdt} \]
は「hack総額」や「累積損失÷現在TVL」より公平性が高い。
② GrossとNetは分けなければならない
Recovery capabilityを無視すると、SolanaやSuiなどの実際の顧客損失を誤評価する。
③ AvailabilityとAsset-lossは一致しない
SolanaのL1 outage historyと、2024–25のDeFi Gross CSLI proxyは全く異なる順位を示す。
④ 若いchainでは一件の事故の影響が大きい
SuiのCetusが代表例。
⑤ Cardanoは低CSLI候補
ただし、損失0%の証明ではなく、TVL Exposureもまだ小さい。
⑥ Polkadotはecosystem単位で評価すべき
Relay Chain単体では正しく測れない。
24. 研究上の最重要原則
完全な10チェーン開始以来CSLI-Netを、推測値で埋めてはいけない。
v1.0では、
- 確認できる数値は数値化
- proxyはproxyと明記
- lower boundはlower bound
- 未確定は未確定
- 0と推定しない
- Confidenceを併記
というルールを守る。
この方が研究データとして正しい。
25. CSLI-Net v2.0への道
最終的には、
\[ \boxed{ CSLI\text{-}Net\ v2.0 = \frac{Net\ Customer\ Loss} {\int TVL(t)dt} } \]
を、
- 日次TVL実積分
- incident-by-incident reconciliation
- chain attribution
- Returned / Recovered / Compensation確認
- multi-chain double-count除去
によって確定する。
v2.0では、
Point Estimate + Confidence Interval
まで示すのが理想である。
26. 5段階シナリオ分析
| Scenario | 将来のCSLI研究 | 推定確率 | 意味 |
|---|---|---|---|
| S5 最良 | CSLI-Netがindustry標準risk metricへ発展 | 15% | DeFi保険・機関投資家評価へ利用 |
| S4 | 主要chainで高精度CSLIを継続計算可能 | 35% | chain横断比較に実用化 |
| S3 基準 | 一部manual reconciliationが残る | 30% | research用途として定着 |
| S2 | multi-chain化でchain帰属が困難 | 15% | protocol-centric metricへ移行 |
| S1 最悪 | wallet / bridge / chain境界が曖昧化 | 5% | CSLI単独の意味が低下 |
最も可能性が高いのはS4〜S3と考える。
27. 結論
CSLI-Netを導入すると、
ハッキング総額
ではなく、
どれだけの資産を、どれだけ長期間預かり、そのうち最終的にどれだけ失ったか
を評価できる。
これにより、
- 現在TVL snapshotの歪み
- 長寿命chainへの不利
- young chainでの単一事故の過大影響
- recovery能力の無視
をかなり改善できる。
現時点では、
完全な精密値を装うより、レンジ+Confidenceを示す方が研究データとして正しい。
CSLI-Net v1.0は、10チェーンについて比較可能な範囲を整理した研究版である。
次のv2.0では日次TVL実積分と全incident reconciliationを実施し、
\[ \boxed{ Availability \times Safety \times Asset\text{-}loss } \]
によるメジャー10チェーン総合安全性評価へ接続する。
Sources
DefiLlama
- DefiLlama Hacks Database
https://defillama.com/hacks
- DefiLlama Total Value Lost by Protocol
https://defillama.com/hacks/total-value-lost
- DefiLlama API Documentation
https://api-docs.defillama.com/
- DefiLlama Downloads
https://defillama.com/downloads
- DefiLlama Cardano
https://defillama.com/chain/cardano
- DefiLlama Polkadot Chains
https://defillama.com/chains/Polkadot
Security Research
- Immunefi
The Ecosystem Vulnerability Scoreboard: 6 Years of DeFi Loss Data https://immunefi.com/blog/research/the-ecosystem-vulnerability-scoreboard-6-years-of-defi-loss-data/
- Immunefi
Hacking Deep Dive: BNB Chain Report https://immunefi.com/blog/research/hacking-deep-dive-bnb-chain-report/
- Helius
Solana Hacks, Bugs, and Exploits: A Complete History https://www.helius.dev/blog/solana-hacks
Incident / Recovery References
- Sui Foundation
Cetus Incident Response / Recovery Plan https://blog.sui.io/cetus-incident-response-onchain-community-vote/
- Acala / Polkadot ecosystem incident reporting
Acala aUSD recovery and burn reports
- Wormhole incident / restoration reporting
Wormhole funds restoration following exploit
Fact Check / Limitations
- 本稿はCEX・custody・個人wallet事故を原則除外している。
- Gross HackedとNet Customer Lossを区別する。
- Returned / Recovered / Compensatedは重複控除しない。
- TVL Exposureはv1.0時点で完全な日次積分値ではなく、一部レンジ推定を含む。
- SuiはCetus recovery / compensationの価値評価でNet Lossが大きく変わる。
- Cardano・XRPL・TRON等の低CSLIは「損失ゼロの証明」ではない。
- PolkadotはRelay Chainではなくparachain ecosystem exposureとして扱う。
- CSLI-NetはBWtake & CGTAによる研究指標であり、公的・学術標準ではない。
- v1.0はresearch-grade provisional finalであり、v2.0では日次実積分とincident-by-incident reconciliationを行うことを想定する。
スピンオフ研究
CSLI-Netに近い既存研究・サイトは何か
作成日:2026-08-17 JST
はじめに
Chain Security Loss Index(CSLI-Net)は、
\[ CSLI_{Net} = \frac{累積Net Customer Loss} {\int TVL(t)\,dt} \]
という考え方によって、
そのチェーンがこれまで何ドル・年の資産を預かり、そのうち最終的に何ドルを顧客損失として残したか
を評価する指標である。
では、このような研究をすでに行っている個人・研究者・サイトは存在するのか。
調査すると、CSLI-Netに近い考え方は複数存在する。
しかし、
累積Net Customer Lossを、chain-levelの累積TVL Exposureで正規化して開始以来比較する
という形を、そのまま採用している著名な既存指標は、現時点で確認しにくい。
CSLI-Netは完全に孤立した発想ではない。
むしろ、
- DefiLlamaのhack database
- Immunefiのannual loss / average TVL
- Oak Securityのexploit taxonomy
- Sentoraのrecovery analysis
- 学術研究のrisk normalization
の間に存在する空白を統合しようとする指標と考えるのが適切である。
1. CSLI-Netに最も近い既存プレイヤー
| 系統 | 個人・サイト | 主な研究内容 | CSLI-Netとの近さ |
|---|---|---|---|
| 事故DB型 | DefiLlama Hacks | Hack額、chain、分類、Returned、Net User Loss | ★★★★★ |
| TVL正規化型 | Immunefi Research | 年間Loss / 年平均TVL | ★★★★★ |
| 実証分析型 | DefiLlama Research | exploit前後のTVL変化、protocol resilience | ★★★★★ |
| Security taxonomy型 | Oak Security / rekt.news | exploit原因、audit、損失分布、tail risk | ★★★★☆ |
| Recovery分析型 | Sentora Research | exploit、attack surface、recovery outcome | ★★★★☆ |
| 学術研究型 | 大学・研究者 | TVL、systemic risk、TVR、risk scoring | ★★★★☆ |
2. DefiLlama Hacks
CSLI-Netの基礎データとして最も直接的なのがDefiLlama Hacksである。
DefiLlamaはDeFi exploitについて、
- protocol
- chain
- date
- amount hacked
- classification
- attack technique
を蓄積している。
さらにTotal Value Lost by Protocolでは、
- Total Hacked
- Returned Funds
- Net User Loss
を分離している。
これはCSLI-Netのnumeratorに必要な、
\[ Net\ Customer\ Loss \]
を再構築するうえで極めて重要である。
つまりDefiLlamaは、
CSLI-Netそのものを計算してはいないが、CSLI-Netを作るための最重要データベース
と位置付けられる。
3. DefiLlama Research
DefiLlama Researchは、単なる事故一覧ではなく、exploitとTVLを組み合わせた実証研究を行っている。
特に2026年の研究では、多数のexploitについて、
- incident前TVL
- incident後TVL
- TVL loss ratio
を比較している。
これは、
hack額をabsolute amountとして見るのではなく、protocolが保有していた資産量に対してどれほどの損失だったか
を見る発想である。
CSLI-Netとの違いは、
- protocol単位
- incident前後
- 短期間
を中心としている点。
CSLI-Netはそれを、
chain単位 × 開始以来 × 累積TVL Exposure
へ拡張する。
したがって思想的には非常に近い。
4. Immunefi Research
CSLI-Netの最も直接的な先行例に近いのがImmunefiである。
Immunefiはecosystem security比較で、
\[ \frac{年間Exploit Loss}{年間Average TVL} \]
を使用している。
これはCSLIの1年版と考えられる。
例えば2025年には、
- BNB Chain:約0.33%
- Ethereum:約0.42%
- Solana:約0.42%
といったTVL-adjusted loss rateが示されている。
この考え方は重要である。
単純なhack総額ではEthereumのような巨大ecosystemが不利になる。
そこでImmunefiは、
どれだけのTVLを抱えていたか
を分母に入れている。
CSLI-Netはさらにこれを、
\[ Annual\ Loss / Average\ TVL \]
から、
\[ Cumulative\ Net\ Loss / \int TVLdt \]
へ拡張している。
5. Oak Security / rekt.news
Oak Securityの研究はexploit taxonomyとtail risk分析に強い。
多数のaudit findingとreal-world exploitを組み合わせ、
- vulnerability type
- exploit原因
- auditとの関係
- damage distribution
を分析している。
特に重要なのは、
DeFi損失は均等に発生しない
という点である。
上位少数のincidentが全損失の大部分を占めるheavy-tail distributionになりやすい。
これはCSLI-Netにも重要な示唆を与える。
平均CSLIが低くても、
極端に大きな一件が起こるtail risk
が高ければ、安全とは言い切れない。
したがって将来的には、
\[ CSLI_{Net} \]
だけでなく、
- Maximum Single Incident / TVL Exposure
- 95% Tail Loss
- Catastrophic Loss Frequency
なども併記した方がよい。
6. Sentora Research
Sentora ResearchはDeFi Exploits Dashboardなどを通じて、
- protocol type
- attack surface
- attack vector
- audit status
- recovery outcome
- capital loss
を構造化している。
CSLI-Netとの共通点は、
Gross LossだけでなくRecovery Outcomeを見る
ことである。
これは非常に重要である。
同じ$100M exploitでも、
Protocol A
$100M盗難 → $95M回収
Protocol B
$100M盗難 → $0回収
では、顧客の最終損失は大きく異なる。
CSLI-Netは後者を明示的に区別する。
7. 学術研究
学術側でも、DeFi riskを単純なTVLやhack額ではなく、
- exposure
- leverage
- liquidity
- systemic correlation
- liquidation
- redeemable value
などで測ろうとする研究が増えている。
重要なのは、
「大きいTVL = 安全」ではない
という認識が広がっていることである。
同様に、
「hack総額が大きい = 危険」でもない。
リスクは分母となる資産量・時間・構造で正規化する必要がある。
この方向性はCSLI-Netと一致している。
8. TVLそのものにも問題がある
CSLI-Netにも弱点がある。
それは分母となるTVL自体が完全な指標ではないこと。
DeFiでは、
- wrapped asset
- rehypothecation
- leverage
- recursive lending
- LP token再利用
によって同じeconomic valueが複数回TVLへ計上される場合がある。
つまり、
\[ TVL > 真のRedeemable\ Value \]
となることがある。
この問題に対して研究側では、
TVR = Total Value Redeemable
という考え方が提案されている。
9. CSLI-TVRという次の発展
将来的には、
\[ CSLI_{Net}^{TVL} = \frac{NetLoss}{\int TVLdt} \]
だけでなく、
\[ \boxed{ CSLI_{Net}^{TVR} = \frac{NetLoss}{\int TVRdt} } \]
という指標も考えられる。
TVRは、
同じ資産を何度も数えず、最終的にredeemできるeconomic value
に近い。
これが実装できれば、
DeFi ecosystemが実際に何ドルの経済価値を預かってきたか
に対するNet Lossを測れる。
理論的にはCSLI-TVLよりさらに精密になる可能性がある。
10. CSLI-Netの独自性はどこにあるか
既存研究は大きく分けると、
DefiLlama
事故を集める。
Immunefi
LossをTVLで正規化する。
Oak Security
事故原因とtail riskを分析する。
Sentora
Recovery Outcomeを分類する。
学術研究
Exposureやsystemic riskを数理化する。
CSLI-Netはこれらを統合し、
\[ \boxed{ Cumulative\ Net\ Customer\ Loss / Cumulative\ TVL\ Exposure } \]
としてchain単位で比較する。
つまり、
保険のloss ratio
>
×
>
asset-years
>
×
>
DeFi exploit database
を組み合わせた指標に近い。
ここがCSLI-Netの独自性候補である。
11. 「完全に新しい」と言ってよいか
現時点では慎重に扱うべきである。
今回確認した範囲では、
CSLI-Netと全く同じ式・scope・chain-level comparisonを採用した著名な既存指標は確認できていない。
しかし、
世界中の全論文・個人研究に存在しない
ことを証明したわけではない。
したがって表現としては、
既存研究を組み合わせた独自metric候補
または、
少なくとも主要なDeFi security researchでは一般化していない比較指標
とするのが適切である。
12. 既存研究との比較
| 項目 | DefiLlama | Immunefi | Oak | Sentora | CSLI-Net |
|---|---|---|---|---|---|
| Gross Hack | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| Returned | ○ | △ | △ | ○ | ○ |
| Net User Loss | ○ | △ | △ | ○ | ○ |
| Chain attribution | ○ | ○ | △ | ○ | ○ |
| TVL normalization | △ | ○ | × | △ | ○ |
| Time integration | × | 年単位 | × | × | ○ |
| Recovery capability | ○ | △ | △ | ○ | ○ |
| Start-to-date comparison | △ | △ | △ | △ | ○ |
| $/1M-year表示 | × | × | × | × | ○ |
CSLI-Netは、
既存研究の複数の長所を一つに統合
していることが分かる。
13. 次に加えるべき指標
CSLI-Netだけでsecurity全体を表すことはできない。
今後は少なくとも、
Asset-loss
\[ CSLI_{Net} \]
Tail Risk
\[ Largest\ Incident / TVL\ Exposure \]
Availability
\[ 重大停止数 / chain\text{-}year \]
Safety
consensus / finality / monetary invariant failure
Recovery
\[ Recovered / Gross\ Loss \]
を分離した方がよい。
14. Chain Security Dashboard構想
最終的には、
| 指標 | 意味 |
|---|---|
| CSLI-Net | 資産損失率 |
| Recovery Ratio | 事故後回収能力 |
| Tail Loss | 巨大事故耐性 |
| Availability Index | 停止耐性 |
| Safety Index | 台帳整合性 |
| Client Diversity | common-mode failure耐性 |
を並べる。
これなら、
「どのchainが安全か」
を単一順位ではなく、多面的に比較できる。
15. 5段階シナリオ分析
| Scenario | CSLI研究の展開 | 推定確率 | 意味 |
|---|---|---|---|
| S5 最良 | CSLI型metricがinstitutional risk standardへ発展 | 15% | DeFi保険・金融機関が利用 |
| S4 | security research communityで類似指標が普及 | 30% | chain横断比較が一般化 |
| S3 基準 | 個人・研究サイトの独自指標として継続 | 35% | nicheだが実用的 |
| S2 | multi-chain化でchain単位比較が難しくなる | 15% | protocol単位へ移行 |
| S1 最悪 | TVL/TVR自体の信頼性不足で指標価値が低下 | 5% | 新しい分母が必要 |
最も可能性が高いのはS3〜S4。
16. CGTAの総括
CSLI-Netに近い研究はすでに存在する。
特に、
- DefiLlama
- Immunefi
- DefiLlama Research
- Oak Security / rekt.news
- Sentora Research
- DeFi riskの学術研究
は非常に参考になる。
しかし、
\[ \boxed{ Cumulative\ Net\ Customer\ Loss / \int TVL(t)dt } \]
を、
chain単位・開始以来・Net Lossベース
で横断比較する形は、主要な既存サービスでは一般化していない。
CSLI-Netの面白さは、
既存研究の「事故額」「回収」「TVL正規化」「時間」「chain比較」を一つのmetricへ統合していること
にある。
完全に新しい概念だと断言する段階ではない。
しかし、
既存研究の間に残っている空白を埋める独自研究テーマ
としては十分成立する。
FBLのスピンオフテーマとしては、
「ブロックチェーンの安全性を、価格やTPSではなく、資産を安全に預かった累積実績で測る」
という明確な研究軸になる。
Sources
- DefiLlama Hacks Database
https://defillama.com/hacks
- DefiLlama Total Value Lost by Protocol
https://defillama.com/hacks/total-value-lost
- DefiLlama Research
https://defillama.com/research
- Immunefi Research
https://immunefi.com/blog/research/
- Oak Security Research
https://research.oaksecurity.io/
- Sentora Research / DeFi Exploits Dashboard
https://sentora.com/research/dashboards/defi-exploits
- DeFi Risk academic literature
ScienceDirect / arXiv等のDeFi risk、TVL、systemic risk、TVR関連研究
Fact Check / Limitations
- CSLI-Netと完全に同一の式・scopeを持つ著名な既存指標は、今回確認した範囲では確認できていない。
- 「世界で初めて」と断定するものではない。
- DefiLlama、Immunefi、Oak Security、Sentora等にはCSLI-Netを構成する重要な先行要素が存在する。
- TVL自体にはdouble counting、wrapped asset、rehypothecation等の問題がある。
- 将来的にはTVRを分母にしたCSLI-TVRも検討価値がある。
- 本稿のCSLI-NetはBWtake & CGTAによる研究指標であり、公的・学術標準ではない。
作成年月日:2026-08-17 JST