OBSERVATION NOTE / MDFOOB-HU
Ethereum Glamsterdam Q4延期とL1再設計――state gas・ePBS・BALが示す次世代Ethereum
Glamsterdamの延期背景と、state gas、ePBS、BALを中心にEthereum L1の再設計とHegotá・PQC時代への意味を整理します。
現在日時:2026-08-19 JST
要約
Ethereumの次期大型アップグレード「Glamsterdam」は、当初想定されていた2026年上半期から、2026年第4四半期(Q4)へ延期された。
ただし、この延期は単なる開発遅延というより、Glamsterdamのスコープが非常に大きく、Ethereum L1の
- ブロック生成
- 実行
- state管理
- gas accounting
- MEV基盤
- validator挙動
- wallet・indexer・RPC・gas推定
までを同時に変更する、極めて大規模な統合アップグレードであることを反映したものと考えるのが適切である。
Glamsterdamの中核は、概ね次の3本柱に整理できる。
| 柱 | 主なEIP | 何を変えるか | 主目的 |
|---|---|---|---|
| ブロック生成 | EIP-7732 ePBS | proposerとbuilderをプロトコル内で分離 | MEV基盤・スケーリング |
| 実行高速化 | EIP-7928 BAL | ブロックが触るstateを事前明示 | 並列実行・並列I/O |
| state肥大抑制 | EIP-8037 | state生成を別gasで計測 | 高gas limitでもDB肥大を抑制 |
この3つを組み合わせることで、Ethereumは将来的に200M gas級のL1処理能力を目指す基盤を整えようとしている。
1. Glamsterdamは何をするアップグレードなのか
一言で言えば、
L1をもっと大きくしても壊れないように、ブロック生成・実行・状態保存の仕組みを一度に作り替えるアップグレード
である。
従来のEthereumは、L2中心のスケーリング戦略を強く推進してきた。
しかし現在は、
- L2 scaling
- L1 scaling
を同時に進める方向へシフトしている。
Glamsterdamは、そのL1側の基礎工事に相当する。
2. 最重要の変更:EIP-8037とstate gas
今回もっとも重要な変更の一つが、EIP-8037によるstate gas dimensionである。
Ethereumでは、gas limitを上げれば理論上は1ブロックあたりの処理量を増やせる。
しかし単純にgas limitだけを上げると、
- transaction処理量が増える
- stateへの書き込みも増える
- nodeのdatabaseが肥大化する
- SSD容量・I/O・同期負荷が増える
- 個人node運用が難しくなる
という問題が起きる。
つまり、スループットを上げるだけでは decentralization が損なわれる可能性がある。
EIP-8037では、この問題に対し、
- execution gas
- state gas
を分離して扱う。
概念的には次のようになる。
従来
Gas
├─ CPU
├─ memory
├─ storage
└─ state creation
↓
Glamsterdam
Execution Gas
├─ CPU
├─ opcode execution
└─ calldata
State Gas
├─ new account
├─ new storage slot
└─ new contract stateつまり、単純な計算負荷と、永続的にEthereum stateを増やす処理を別資源として評価する方向である。
これはEthereumのgas設計における大きな転換である。
3. なぜstate gasが必要なのか
Ethereum FoundationやEIP文書では、state databaseの肥大化が明確な問題として扱われている。
gas limitを60Mからさらに大きく上げる場合、state creationまで比例的に増えてしまうと、nodeのstorage requirementsが急速に増える。
そこで、
計算量は増やしてもよいが、永久stateを増やす処理には別の価格を付ける
という考え方が必要になる。
これは単なる手数料調整ではない。
Ethereumが将来的に、
- compute
- state
- calldata
- proof
- bandwidth
などを別々の有限資源として扱う方向へ進む可能性を示している。
推測ですが、Glamsterdamのstate gasは、本格的なmulti-dimensional resource pricingへの第一歩と見ることができる。
4. 200M gasを安全に目指すための設計
Ethereum開発者は、Glamsterdam後のgas limitについて、200M級を視野に入れている。
現在の約60Mから見れば約3倍であり、これは非常に大きな拡張である。
しかし、単純なgas limit引き上げではnode負荷が過大になる。
そのためGlamsterdamでは、
ePBS
↓
executionに使える時間を増やす
BAL
↓
並列処理・並列I/Oを可能にする
State Gas
↓
state肥大を抑える
3つを組み合わせる
↓
高いgas limitを安全に扱うという構造を取る。
Glamsterdamは単一EIPによる性能向上ではなく、複数の基盤改修を組み合わせることでL1をscaleさせる設計である。
5. EIP-7928 Block-Level Access Lists(BAL)
BALはGlamsterdamの中でも特に重要な技術である。
Ethereumでは通常、transactionを実際にexecutionしてみなければ、そのtransactionが
- どのaccountを読むか
- どのstorage slotを読むか
- どのstateを書き換えるか
が完全には分からない。
これは並列実行を難しくする。
BALでは、block単位で、そのblockが接触するaccountやstorageを明示する。
例えば、
Tx A → Account A
Tx B → Account B
Tx C → Account Cのように依存関係がなければ、複数transactionを並列に処理できる可能性が生まれる。
これによって期待されるのは、
- parallel execution
- batched I/O
- parallel state-root computation
である。
つまりBALは、Ethereumが長年抱えてきた「EVMは基本的に逐次処理」という制約を緩和するための基礎技術である。
6. EIP-7732 ePBS
もう一つの中核が、EIP-7732による
Enshrined Proposer-Builder Separation(ePBS)
である。
現在のEthereumでは、MEV-Boostなどを介し、
Validator
↓
MEV-Boost
↓
Relay
↓
Builderという構造でblock buildingが行われている。
このうち重要な部分がプロトコル外部に存在する。
ePBSでは、
Ethereum Protocol
├─ proposer
└─ builderという役割分担をEthereum protocolそのものへ組み込む。
これによって、
- builder入札
- payload delivery
- proposer / builder責任分離
- block timing
- censorship resistance
- MEV market
などをprotocol levelで扱いやすくなる。
ePBSは単なるMEV改善ではなく、Ethereumのblock production architectureそのものを変える。
7. ePBSはL1 scalingにも効く
ePBSの重要な点は、block constructionとexecution payloadの受け渡しを明確化し、slot内の時間配分を最適化できることである。
これによってexecutionに使える時間を増やし、より大きなblockを安全に処理する余地が生まれる。
したがってePBSは、
- MEV architecture
- censorship resistance
- validator operation
- L1 throughput
のすべてに関係する。
8. Contract size limitの拡大
Glamsterdamでは、contract code size limitの拡大も予定されている。
これは、
- smart wallet
- ZK verifier
- 大規模DeFi protocol
- 複雑なaccount abstraction
- cryptographic verification
などの実装自由度を高める。
ただしcontract codeが大きくなればstateも増える。
したがって、
contractを大きくできるようにする しかしstate creationには別の価格を付ける
というstate gasとの組み合わせが重要になる。
9. Platåberget公開testnet
Glamsterdam専用の公開testnetとしてPlatåbergetが立ち上げられている。
従来のprivate devnetと異なり、外部のoperatorやclient developerが参加できるpublic testnetである。
目的は、
- client implementation
- fork transition
- interoperability
- validator behavior
- gas accounting
- tooling compatibility
などをmainnetに近い条件で検証することにある。
概念的には、
Private Devnet
↓
Platåberget Public Testnet
↓
Sepolia / Hoodi
↓
Ethereum Mainnetという段階を踏む。
これは非常に合理的な工程である。
Glamsterdamほど大きなprotocol changeを、いきなり主要testnetに入れるより、専用public testnetで破壊的なテストを行った方が安全性は高い。
10. 「21,000 gasのまま」という記事記述への補正
元記事では、
既存accountへのETH送金は従来どおり21,000 gas
と説明されている。
しかし、現在のGlamsterdam仕様にはEIP-2780も含まれており、既存accountへの単純ETH transferではexecution側のgas costを引き下げる方向が示されている。
したがって正確には、
既存accountへの単純送金
↓
execution gasは軽くなる方向
新規accountへの送金
↓
state creation gasが追加されると理解する方がよい。
元記事はEIP-2780とEIP-8037の関係を簡略化しすぎている可能性がある。
11. Ethereumは「multi-dimensional gas」へ進むのか
ここは注意が必要である。
以前議論されていたEIP-8011のような全面的なmulti-dimensional gas設計はGlamsterdamから外れている。
しかしEIP-8037では、
- execution gas
- state gas
という2種類のmeteringが導入される。
したがって、
全面的なmulti-resource gas architectureではないが、state creationについては実質的な2次元化
と評価できる。
これは将来のEthereumにとって大きな意味を持つ。
12. なぜQ4へ延期されたのか
Glamsterdamの延期は、単なる「開発が遅れた」というより、integration riskが非常に高いことが最大の理由と考えられる。
影響範囲は、
Consensus
Execution
Gas accounting
State DB
Builder market
Validator behavior
Wallet gas estimation
Indexer
RPC
Developer toolingまで広い。
しかもEthereumはmulti-client ecosystemである。
Execution clients
- Geth
- Nethermind
- Besu
- Erigon
Consensus clients
- Lighthouse
- Prysm
- Teku
- Nimbus
- Lodestar
これらすべてが同じprotocol rulesを実装し、同じedge caseで同じ結果を返さなければならない。
Ethereumのhard forkでは、EIPを書くことそのものよりも、
多数のclient implementationを完全に収束させること
の方が難しい場合がある。
したがってQ4延期は、scopeを考えると合理的なengineering判断と評価できる。
13. Ethereum開発複雑性の増大
一方で、明確な課題もある。
Ethereumは現在、
- L1 scaling
- ePBS
- BAL
- state gas
- FOCIL
- account abstraction
- privacy
- PQC
- shorter slots
- statelessness
などを並行して研究・実装している。
そのため、protocol developerだけでなく、
- client teams
- wallet developers
- RPC providers
- indexers
- exchanges
- dApps
- node operators
まで対応負荷が増大する。
これは今後のEthereumにとってかなり重要なリスクである。
Ethereumの最大の課題は、単一技術の性能ではなく、
巨大ecosystem全体を同時にupgradeするcoordination complexity
へ移りつつある。
14. Hegotáへの影響
Ethereum公式roadmapでは、
| Upgrade | 目標時期 |
|---|---|
| Glamsterdam | Q4 2026 |
| Hegotá | 2027 |
となっている。
Hegotáについては多数のEIPが検討されており、
- censorship resistance
- privacy
- L1 throughput
- block production
- protocol simplification
などが候補に含まれている。
ただし、Glamsterdamが延期したからといって、Hegotáが必ず同じ期間だけ延期するとは現時点では断定できない。
一方でclient developerやresearcherは重複しているため、Glamsterdamのintegration作業が長期化すれば、Hegotáに連鎖する可能性はある。
15. Ethereumの戦略変化
Ethereumのスケーリング戦略は、以前の
L2中心
から、
L2 scaling + L1 scaling
へ明確に広がっている。
これは非常に重要な変化である。
L2 rollupを維持しつつ、Ethereum L1自体もより大きなtransaction execution capabilityを持つ方向へ進んでいる。
Glamsterdamはその基盤である。
16. Cardanoとの設計思想比較
EthereumとCardanoは、スケーリングに対する哲学がかなり異なる。
| 項目 | Ethereum | Cardano |
|---|---|---|
| Scaling | gas limit拡張+並列化+L2 | Leios+eUTXO並列性 |
| State問題 | state gasによるpricing | UTXO構造でstate依存を限定 |
| Block production | ePBS | Ouroboros / SPO |
| Execution | EVM改良 | eUTXO |
| Upgrade | 多数EIP統合 | formal specification重視 |
| 主な課題 | integration complexity | implementation speed |
Ethereumは、
既存の巨大ecosystemを維持したまま内部構造を交換する
という非常に難しい道を選んでいる。
Cardanoは、
初期設計の制約を活用し、将来変更の複雑性を抑える
方向である。
どちらもtrade-offがあり、単純な優劣ではない。
17. PQC時代との関係
GlamsterdamはPQCそのものを導入するupgradeではない。
しかし将来のPost-Quantum Cryptography時代を考えると、今回の基盤変更は重要である。
PQCでは一般に、
- public key
- signature
- proof
- verification cost
が現在のECDSA系より大きくなる可能性がある。
その結果、
- computation
- bandwidth
- storage
- state
- block propagation
への負荷が増える。
この点は、金融分野のPQC移行報告書でも、PQCは従来暗号より通信量・計算量・署名データ量など少なくとも一つ以上のリソース消費が増える可能性があると整理されている。 fileciteturn0file0
したがって、
- resource-aware gas accounting
- parallel execution
- state control
- scalable block production
を先に整備することは、将来のPQC・ZK・privacy時代にとって意味がある。
18. 5段階シナリオ分析
Glamsterdamを中心に今後約2年を想定する。
| Scenario | 内容 | 推定確率 |
|---|---|---|
| S5 | Q4 2026に成功、200M級gasへ移行、BAL/ePBS安定、Hegotáも順調 | 20% |
| S4 | Q4 2026に成功、gas limitは段階的上昇、2027年Hegotáへ接続 | 40% |
| S3 | Glamsterdamが2027初頭へ再延期するが主要機能は成功 | 25% |
| S2 | ePBS/state gas等で重大な問題が見つかり、scope縮小または段階導入 | 12% |
| S1 | compatibility問題が長期化し、一部EIP撤回・大幅延期 | 3% |
中心シナリオはS4と考える。
19. 総合評価
今回のニュースを、
「Ethereumの開発が遅れている」
だけで評価するのは不十分である。
より正確には、
Ethereumがsimple blockchainから、大規模な分散実行OSへ移行する過程で、architecture complexityが表面化した
と見るべきである。
Glamsterdamでは、
stateを有限資源として明示的に価格付け
↓
executionを並列化
↓
builderをprotocolに取り込む
↓
block processing capacityを拡張
↓
L1 gas limitを大幅に上げるという構造が形成される。
したがってGlamsterdamは、2026年の単なる高速化upgradeではない。
Hegotá、privacy、ZK、PQC、さらに高いL1 throughputへ進むためのEthereum基盤工事
と位置付けるのが最も適切である。
Fact Check
| 項目 | 判定 | コメント |
|---|---|---|
| GlamsterdamがQ4 2026へ延期 | 確認 | Ethereum公式roadmapでQ4 2026 |
| Hegotáは2027目標 | 確認 | Ethereum公式roadmap |
| EIP-8037 state gas | 確認 | Glamsterdam inclusion scope |
| EIP-7732 ePBS | 確認 | Glamsterdam inclusion scope |
| EIP-7928 BAL | 確認 | Glamsterdam inclusion scope |
| Platåberget公開testnet | 確認 | 公開repositoryあり |
| 既存account送金は21,000 gasのまま | 要補正 | EIP-2780との整合上、単純化が強い |
| Hegotáが必ず連鎖延期 | 未確認 | 可能性はあるが確定ではない |
| PQCの直接導入 | 否 | GlamsterdamはPQC upgradeではない |
出典・情報源
- Ethereum.org, Ethereum Roadmap
- https://ethereum.org/roadmap/
- Ethereum.org, Glamsterdam
- https://ethereum.org/roadmap/glamsterdam/
- Ethereum Improvement Proposals, EIP-7773: Glamsterdam Meta
- https://eips.ethereum.org/EIPS/eip-7773
- Ethereum Improvement Proposals, EIP-8037: State Creation Gas Cost Increase
- https://eips.ethereum.org/EIPS/eip-8037
- Ethereum Foundation Blog, Soldøgn Interop Recap
- https://blog.ethereum.org/2026/05/02/soldogn-interop-recap
- Platåberget Public Testnet Repository
- https://github.com/pk910/plataberget-dev
- 金融庁「預金取扱金融機関の耐量子計算機暗号への対応に関する検討会 報告書」
- PQCは既存公開鍵暗号よりも通信量・計算量・署名データ量等のリソース要求が増える可能性を指摘。 fileciteturn0file0
CGTA注記
- 確認済み:Ethereum公式Roadmap、Meta EIP、個別EIP、Ethereum Foundation資料を中心にfact check。
- 推測部分:「state gasが本格的multi-dimensional gasへの第一歩」「PQC・ZK・privacy時代への基盤」という評価は、現在の設計方向からのCGTAによる将来推定。
- 未確認:Hegotáの最終scopeおよびmainnet実施時期は確定していない。
作成年月日:2026-08-19 JST