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OBSERVATION NOTE / MDFOOB-HU

zk.money再開とEthereumプライバシー支払い:Aztec・Midnight・Programmable Privacyの現在地

2026年9月に再開したzk.moneyを起点に、Aztec Networkのプライベート実行環境、EthereumのZK化、MidnightのSelective Disclosureとの違い、規制上の論点、2030年前後の5段階シナリオを整理する。

Aztec・Midnight・Programmable Privacyの現在地

現在日付:2026-10-01 JST

今回のzk.money再開は、単なる「匿名送金ウォレット復活」ではない。

重要なのは、Ethereum系で

「プライバシーをアプリ側の付加機能ではなく、実行環境そのものに組み込む」

流れが一段進んだ点にある。


1. 結論

今回のポイントは3つある。

項目意味
zk.money再開2023年に停止した旧サービスが、Aztec Network上で再構築されて復活
プライバシー残高・送金額・相手方を公開台帳に出さずに送金可能
本質Ethereum L2に「プライベート実行環境」が実用サービスとして戻ってきた

ただし、

「Ethereum上で完全匿名になる」わけではない。

Ethereumからzk.moneyへの入金はL1上で公開される。

その後のAztec内部における

  • 残高
  • 送金額
  • 相手方

などが秘匿される。

現時点のAlpha版では、入金・送金・出金に上限が設定されていると報じられている。


2. zk.moneyとは何か

zk.moneyは、Aztec Labsが開発する

セルフカストディ型プライバシーウォレット

である。

通常のEthereum送金では、原則として以下が公開される。

  • 送信元
  • 送信先
  • 金額
  • 残高
  • 過去の取引履歴

一方、zk.moneyではゼロ知識証明を利用し、

正しい残高を持つ利用者が、正当な送金を行った

という事実だけを証明し、取引内容そのものは公開しない設計になっている。

概念的には次のようになる。

Ethereum
   │
   │ 公開deposit
   ▼
Aztec Network
   │
   ├─ A → B
   ├─ B → C
   └─ C → D

Aztec内部では
・残高
・金額
・相手
を非公開化

ここで重要なのは、

公開チェーンからプライベート実行環境へ資産を移し、その内部で秘匿取引を行う

という構造である。


3. なぜ一度終了したのか

初代zk.moneyは2021年に登場し、一定規模の利用実績を持っていた。

Aztec側は過去に、

  • 75,000超の利用者・ウォレット
  • 1億ドル超の取引量

を公表している。

それにもかかわらず2023年に一度終了した。

重要なのは、

プライバシー需要がなかったからではない

という点である。

旧Aztec Connectには、

  • 中央集権的なsequencer
  • 汎用private smart contractの制約
  • composabilityの限界
  • shared state設計上の制約

などが存在した。

そこでAztecは、単なる送金アプリの改善ではなく、

プライバシー基盤そのものを作り直す

方向へ移行した。

構造としては、

zk.money 1.0
「プライバシー送金アプリ」
        ↓
Aztec Network
「プライバシー・スマートコントラクト基盤」
        ↓
新zk.money
「その最初の具体的消費者向けユースケース」

と理解すると分かりやすい。


4. 新zk.moneyのUX

今回の新しいzk.moneyで注目すべき点の一つが、

Passkeyと人間が読める名称

である。

従来の暗号資産送金では、

0x39f8...ab72

のような長いアドレスを扱う必要があった。

新zk.moneyでは、人間が扱いやすい名称や支払いリンクを使った受金体験を目指している。

また、Passkeyを使うことで、

  • iCloud Keychain
  • Google Password Manager
  • 1Password
  • YubiKey

などとの統合が可能になる。

従来型の暗号資産UXと比較すると、

従来crypto

Seed phrase
↓
秘密鍵
↓
Wallet address
↓
送金

に対して、

zk.money

Face ID / Passkey
↓
人間が読める名称
↓
送金

という方向に近づく。

これは普及上かなり重要な変化である。


5. ただし「完全匿名」ではない

ここは誤解しやすい。

zk.moneyでもEthereumからAztecへのdepositは公開される。

つまり、

ETH wallet
   │
   │ public
   ▼
Aztec deposit
   │
   │ private
   ▼
zk.money内部

という構造になる。

そのため、

「あるEthereumアドレスがAztecへ入金した」

という事実自体は観測可能である。

一方で、その後のAztec内部で、

  • 誰に送ったか
  • いくら送ったか
  • 何回送ったか

といった情報は秘匿される。

したがって、

Ethereum送金を完全に匿名化する仕組み

と説明するのは正確ではない。


6. Tornado Cash型との違い

zk.moneyは、単純なmixerとは性質が異なる。

Tornado Cash型では主として、

入金元と出金先のリンクを切る

ことが中心だった。

一方Aztecの方向性は、

プライベートな状態とプライベートな計算を持つアプリケーション実行環境

である。

つまり目的は単なる匿名送金にとどまらない。

将来的には、

  • Private DEX
  • Private lending
  • Private payroll
  • Private DAO voting
  • Private RWA
  • Private identity

などへ拡張できる。

この違いは非常に大きい。


7. DAI中心の設計

現時点では、

  • DAI
  • USDC
  • USDT

などをEthereum側から扱えるが、報道ベースでは内部処理においてDAIへ集約される構成が示されている。

概念的には、

USDC ─┐
USDT ─┼→ DAI → private payments
DAI ──┘

となる。

初期段階では資産種別を絞ることで、

  • 流動性管理
  • 会計ロジック
  • private state管理
  • UX
  • セキュリティ

を簡素化できる。


8. Aztec Networkそのものが本丸

zk.moneyだけを見ると、本質を見落とす。

Aztec Networkが目指しているのは、

privacy-first Ethereum L2

である。

本質的な狙いは、

Payments
↓
DeFi
↓
DEX
↓
Lending
↓
DAO
↓
RWA
↓
Identity

までをprivate smart contractとして動かすことにある。

つまりzk.moneyは、

private Ethereum economyへの入口

になり得る。


9. Vitalikの「Cryptographic World Computer」との整合性

2026年9月27日、Vitalik ButerinはEthereumの将来像を

Cryptographic World Computer

と表現した。

その将来像では、

  • ZK proofs
  • recursive STARK
  • formal verification
  • optimized Proof-of-Stake
  • quantum safety
  • decentralized off-chain computation

などが組み合わされる。

特に重要なのが、

ZK proofs baked in at the base layer

という方向性である。

つまりZKが、

L2の特殊な最適化技術ではなく、Ethereumそのものの基礎機能へ近づいていく

ということを意味する。

その観点から見ると、

Ethereum
      ↓
ZK verification layer
      ↓
Aztec
      ↓
private applications
      ↓
zk.money

という構造は、Ethereumが向かう長期方向とかなり整合する。


10. Midnightとの比較

BWtakeの視点では、AztecとMidnightの比較が特に重要になる。

両者ともゼロ知識証明を使ってプライバシーを実現するが、思想は完全には同じではない。

項目AztecMidnight
基盤Ethereum L2独立型data-protection blockchain
主眼private executionprogrammable privacy
private payment強い強い
private smart contract強い強い
selective disclosure実装可能中核設計
public/private stateprivate execution重視dual-stateを明示
compliance設計アプリ次第強く意識
UXzk.money等dApp / Compact
手数料モデルAztec内支払いNIGHT → DUST
企業・行政用途対応可能強く狙う

簡単にまとめると、

Aztec

Ethereumをprivateに使えるようにする

Midnight

何を公開し、何を隠すかをアプリ側で設計する

という違いがある。


11. zk.moneyとMidnightの決定的な違い

たとえば病院が業者へ支払いを行うケースを考える。

Aztec型

病院 → 業者

金額:秘密
相手:秘密

非常に強いprivacyを実現できる。

一方でMidnight型では、

病院 → 業者

一般ユーザー
→ 非公開

監査法人
→ 支払額閲覧可

税務当局
→ 必要項目のみ証明

病院
→ 全記録閲覧

のような

Selective Disclosure

をアプリの設計として組み込むことができる。

この違いは、

  • 行政
  • 医療
  • 金融
  • RWA
  • 企業間取引

では非常に大きい。


12. Aztecも「匿名コイン」ではない

AztecをMoneroのような、

通貨そのものが匿名

というモデルとして理解するのは不正確である。

Aztecの本質は、

programmable private execution

である。

つまり、

プライバシーを持ったスマートコントラクトを作れる

ことが本質になる。

ここはMidnightと真正面から重なる。


13. 最大の論点はAML/CFT

技術面より難しい可能性があるのが規制である。

特にprivate walletでは、

  • AML
  • CFT
  • sanctions
  • Travel Rule
  • source of funds
  • transaction monitoring

との整合性が問題になる。

今後の競争は、

privacy
   ↕
compliance

をどう両立するかに移る。

日本でも暗号資産規制は、

  • 利用者保護
  • AML/CFT
  • 無登録業者対策
  • 情報提供
  • セキュリティ
  • 市場公正性

を重視する方向に進んでいる。

そのため、完全匿名を最大化するだけの設計よりも、

必要なときだけ証明できるprivacy

の方が制度との親和性は高くなりやすい。


14. プライバシー競争は「匿名性」から「Programmable Privacy」へ

今回のニュースの最大の意味はここにある。

2018〜2022年頃:

Privacy coin

Monero
Zcash

その後:

Privacy infrastructure

Aztec
Midnight
ZK-L2

今後:

Programmable Privacy

誰が
何を
誰に
どこまで
開示するか

へ移行している。

つまり、

匿名化そのものがゴールではなくなる。

今後の競争軸は、

情報の可視性を誰が、どの条件で制御できるか

になる。


15. EthereumとMidnightは同じ方向を向き始めている

EthereumとMidnightはアーキテクチャこそ異なるが、向かっている方向には共通点がある。

                  ZK
                   │
        ┌──────────┴──────────┐
        │                     │
Ethereum/Aztec            Midnight
        │                     │
Private execution        Programmable privacy
        │                     │
        └──────────┬──────────┘
                   │
              ZK economy

将来の競争は、

「どのチェーンが最も速いか」

だけではなく、

「誰がprivate computation layerを取るか」

という競争になる可能性がある。


16. 5段階シナリオ分析

2030年前後までのprivacy blockchain市場を考える。

シナリオ内容推定確率
S5ZK privacyが金融・ID・RWAの標準となり、Aztec/Midnight等が大規模採用20%
S4Ethereum/Aztec・Midnight等が用途別に共存40%
S3DeFi・企業用途中心に限定的普及25%
S2AML規制でprivate transactionが大幅制限10%
S1技術・規制問題でprivacy chain普及停滞5%

推測ですが、最も可能性が高いのはS4。

つまり、

Ethereum / Aztec
→ DeFi
→ crypto-native liquidity
→ private financial applications

Midnight
→ compliance
→ RWA
→ identity
→ enterprise / government

という役割分担である。


17. CGTAの注目点

今回のzk.money再開で最も重要なのは、

「プライバシーが特殊なコインの機能から、ブロックチェーン実行環境の標準機能へ移り始めた」

ことである。

これはMidnightが掲げてきた、

Programmable Privacy + Selective Disclosure

という考え方が、独自路線ではなく、

業界全体の大きな潮流になりつつある

ことを示すニュースでもある。

一方で、現在のzk.moneyはまだ初期段階であり、

  • Ethereumからのdepositは公開される
  • 完全匿名ではない
  • 取引額制限がある
  • AML/CFTとの制度調整が残る
  • private executionの大規模利用実績はこれから

という点には注意が必要である。


18. まとめ

zk.money再開は、単なるウォレット復活ではない。

本質は、

Ethereum上にプライバシーを持った実行環境が戻ってきたこと

にある。

そしてこの流れは、

  • Aztec
  • Ethereum ZK roadmap
  • Midnight
  • Zcash系技術
  • zkVM
  • private smart contract

などを一つの大きな流れとして見る必要がある。

これからのプライバシー競争は、

匿名性の強さ

ではなく、

どの情報を、誰に、どの条件で開示するかをプログラムできるか

という競争になる可能性が高い。

その意味で、

Programmable Privacy

は2026年以降のWeb3で重要な設計思想の一つになっていく可能性がある。


Sources

  1. Aztec / zk.money Documentation

https://docs.zk.money/docs

  1. Aztec / Passkeys

https://docs.zk.money/docs/passkeys

  1. Aztec Network

https://aztec.network/

  1. Aztec - History of Aztec / privacy infrastructure

https://aztec.network/blog/history-of-aztec-pioneering-privacy-in-web3

  1. Vitalik Buterin, "The cryptographic world computer", 2026-09-27

https://vitalik.eth.limo/general/2026/09/27/the_cryptographic_world_computer.html

  1. Midnight Network

https://midnight.network/

  1. Midnight FAQ

https://midnight.network/faq

  1. CoinDesk, zk.money relaunch coverage, 2026-09-29

https://www.coindesk.com/tech/2026/09/29/embargo-12-et-ethereum-users-get-another-way-to-pay-privately-as-zk-money-returns-after-three-years

  1. The Block, zk.money relaunch coverage, 2026-09-29

https://www.theblock.co/news/defi/2026-09-29-aztec-zk-money-privacy-wallet-ethereum-layer-2-417174


Fact-check note

  • zk.moneyの再開、旧サービスの終了、Aztec Networkへの移行、Passkey対応、private transaction設計についてはAztec公式情報および複数報道を照合。
  • 「Ethereum上で完全匿名」という表現は不正確。L1上のdeposit自体は観測可能。
  • Midnightとの比較は、各公式ドキュメントに基づく機能比較と、将来用途についてのCGTA分析を分離して記載。
  • 5段階シナリオの確率は将来予測であり、推測。