OBSERVATION NOTE / MDFOOB-HU
ARK × Glassnodeで読み解くBTC・ETH・SOLの分散性6指標
ARK InvestとGlassnodeによるBTC・ETH・SOLの分散性比較を、6指標の定義、測定上の限界、設計思想、将来シナリオまで含めて詳細解説します。
サマリー
ARK InvestとGlassnodeは、Bitcoin(BTC)、Ethereum(ETH)、Solana(SOL)の「分散性」を単純な二択ではなく、複数の軸から評価する共同研究を公表した。
この研究で重要なのは、「BTCが最も分散している」という順位そのものではない。
本質は、
分散性は一つの数字ではなく、どの層で、何を、誰から分散させているかによって意味が変わる
という点にある。
大まかに整理すると、
| 観点 | BTC | ETH | SOL |
|---|---|---|---|
| 個人が独立検証しやすい | 非常に強い | 強い | 弱い |
| ブロック生成権の分散 | やや集中 | やや集中 | 強い |
| 保有分布 | 強い | 中間 | 集中傾向 |
| 地理・ホスティング耐性 | 強い | 中間 | 集中傾向 |
| 高性能・スループット | 低い | 中間 | 非常に高い |
| 総合的位置 | 最も分散側 | 中間 | 最も集中側 |
| 設計思想 | Sovereign verification | バランス型 | Performance decentralization |
したがって、このレポートは「BTCが勝者、SOLが敗者」というランキングではなく、
- BTCは「自分で検証できること」を重視
- ETHは「programmabilityと分散性の両立」を重視
- SOLは「高性能を維持しながらblock producerを分散」することを重視
という、3つの異なる分散モデルを浮き彫りにした研究と読むべきである。
1. そもそも「分散性」とは何か
ブロックチェーンでは「ノード数が多い」「バリデータが多い」ことが分散性として語られやすい。
しかし、それだけでは不十分である。
例えば、1000台のvalidatorが存在していても、
- 同じクラウド事業者
- 同じデータセンター
- 同じ国
- 同じclient software
- 同じstaking provider
に依存しているなら、一つの障害・規制・software bugによって多数が同時停止する可能性がある。
逆にBitcoinでは、ブロック生成を担うmining poolの上位集中度は高いが、一般ユーザーは比較的安価な機材でfull nodeを動かし、マイナーが生成したブロックを自分自身で検証できる。
ここで重要になるのが、
block producer decentralization と verification decentralization は同じではない
という点である。
分散性には、少なくとも以下の異なる次元が存在する。
- ブロック生成権が分散しているか
- 誰でも独立して検証できるか
- コイン保有が分散しているか
- 地理的に分散しているか
- software clientが多様か
- 特定事業者やクラウドに依存していないか
- ネットワーク参加・退出が自由か
ARK × Glassnodeは、こうした多面的な分散性を定量化しようとした。
2. ARK × Glassnodeの6指標
一次資料では、分散性を以下の6指標で比較している。
| # | 指標 | 日本語での意味 | 評価するもの |
|---|---|---|---|
| 1 | Ownership Distribution | 保有分布 | トークン保有の集中度 |
| 2 | Exit Fluidity | 退出容易性 | コンセンサス参加者がどれだけ自由に退出できるか |
| 3 | Network Verification Overhead | ネットワーク検証コスト | 独立ノードを運用する負担 |
| 4 | Critical Resilience Threshold | 重大支配閾値 | ネットワークに重大影響を与えるために必要な最小主体数 |
| 5 | Blockchain Reconstruction Overhead | 台帳再構築コスト | Genesisから現在状態まで独立再構築する負担 |
| 6 | Geographic & Provider Resilience | 地理・事業者耐性 | 国家・クラウド・データセンター障害への耐性 |
したがって、この研究は単なる「validator数ランキング」ではない。
3. BTCが強いのは「誰でも検証できる」こと
レポートでは、full node運用に必要な推定ハードウェア費用が比較されている。
| Network | 推定ハードウェア費用 | 保存容量 | 想定機材 |
|---|---|---|---|
| Bitcoin | 約289ドル | 約753GB | 一般PC級 |
| Ethereum | 約730ドル | 約1.2TB | 中位サーバー |
| Solana | 約21,478ドル | 約3TB | 業務用サーバー級 |
単純計算すると、Solanaのノード用機材費はBitcoinの約74倍となる。
しかし、重要なのは値段そのものではない。
Bitcoinでは比較的一般的な個人でも、
取引所も、マイナーも、第三者APIも信用せず、自分自身でBitcoinのルールを確認する
ことができる。
これはBitcoin文化の中心にある、
Don't trust, verify.
そのものである。
したがってBitcoinの分散性の根本は、「validator数」ではなく、独立検証者の主権にある。
4. Solanaの480TB問題
Solanaでは「現在のvalidatorを走らせるためのストレージ」と「Genesisから履歴全体を再構築するためのデータ量」は同じではない。
報告では、全履歴再構築に約480TB級のデータ処理が必要になる可能性が示されている。
これは非常に重要である。
ブロックチェーンの究極的な独立性とは、
他人のsnapshotやcheckpointを信用せず、Genesisから現在の状態を自分で再構築できる
ことだからである。
Bitcoinではこの作業が比較的容易である。
一方Solanaは、
- 高いblock throughput
- 大量transaction
- 高頻度state更新
を実現する代償として、履歴の再構築負荷が大きくなる。
これは「中央集権化した」というより、
participation costを上げる代わりにperformanceを最大化した
設計上のトレードオフである。
5. Nakamoto係数ではSOLが圧倒的に強い
今回の比較で最も興味深い逆転がここにある。
調査時点では、
| Network | 支配閾値 | Nakamoto coefficient |
|---|---|---|
| Bitcoin | 51% hash rate | 3 |
| Ethereum | 33% stake | 3 |
| Solana | 33% stake | 19 |
とされている。
つまり、Solanaでは33%のstakeに到達するために19主体必要であり、この指標では3ネットワークの中で最も分散している。
これはSOLにとって明確な強みである。
ただし、この数字をそのまま「Bitcoinは3社で乗っ取れる」と読むのは誤りである。
6. 「BTCのNakamoto係数3」の読み方
Bitcoinの上位主体として数えられるのはmining poolである。
しかしmining poolは、必ずしも自分自身ですべてのASICを保有しているわけではない。
多数の独立minerが、
- Foundry
- AntPool
- F2Pool
- その他pool
などにhashrateを委任している。
したがって、poolが異常な行動を取れば、miner側がhashrateを別poolへ切り替えることができる。
よって、
Nakamoto coefficient = 3
は、
3人がBitcoin全体を所有している
ことを意味しない。
ここには「集約レイヤー」と「実体レイヤー」の差がある。
7. EthereumのNakamoto係数も同様
Ethereumも、Lidoや大手staking providerを単一主体として数える場合、33%に到達する主体数は少なくなる。
しかし、例えばLido内部には複数のnode operatorが存在する。
そのためEthereumでは、
- validator
- node operator
- staking provider
- liquid staking protocol
- governance
という多層構造を考える必要がある。
つまりEthereumの分散性は単純なvalidator数ではなく、staking stack全体の権力分散として評価する必要がある。
8. Exit Fluidityという重要概念
ARK × Glassnodeが採用した指標の中で、特に重要なのがExit Fluidityである。
これは、
コンセンサス参加者が、ネットワークからどれだけ速く・自由に退出できるか
を評価する。
Bitcoin minerは、比較的容易にpoolからhashrateを外し、別poolへ移動できる。
一方PoSでは、validator exitやunstakingに一定の待機期間が生じる。
ネットワークが混雑・ストレス状態になると、Ethereumでは退出queueが長くなる可能性もある。
分散システムにおいては、
VoiceだけでなくExitの自由が権力を抑制する
という考え方が重要である。
この点ではBitcoinが強い。
9. 地理的分散ではBTCが強い
報告ではBitcoin nodeのかなりの割合がTor経由で観測され、データセンター依存度が低いとされている。
一方で、
- Ethereumはクラウド依存がBitcoinより高い
- Solanaはデータセンター依存が極めて高い
- Solana validatorは欧州への地理集中も大きい
と評価されている。
この違いは、validator数だけを見ても分からない。
10. Solanaの「論理的分散」と「物理的集中」
Solanaはvalidator stakeの分散では強い。
しかし、そのvalidatorが、
- 同じ地域
- 同じクラウド
- 同じデータセンター業者
- 同じ通信インフラ
に集中すれば、同時障害の可能性が高まる。
したがってSOLは、
論理的分散性は高いが、物理的分散性は相対的に弱い
と整理できる。
これはNakamoto係数だけでは見えない重要なリスクである。
11. SOLは本当に「中央集権」なのか
「Solanaは中央集権」という表現は単純化しすぎている。
より正確には、
Solanaはprotocol上permissionlessだが、高性能ハードウェアを要求するため、economic participationのハードルが高い
と表現するべきである。
すなわち、
- protocol permissionless
- economically constrained
という構造である。
誰でも参加できるが、実際にvalidatorとして競争力を持つには、
- 高性能CPU
- 大容量RAM
- 高速SSD
- 高速ネットワーク
- データセンター
- 運用専門性
が必要になる。
これは「中央集権」ではなく、高性能化のための専門事業者化に近い。
12. 保有分布ではSOLが集中
Glassnodeのwallet size dataでは、Solanaは大規模wallet帯の供給比率が高い。
報告では、
- 100k SOL以上のwallet帯:約58%
- 10k-100k SOL帯:約22%
などとされ、上位2帯で約80%となる。
一方Bitcoinでは、中規模wallet帯にも供給が比較的広く分布している。
そのためOwnership DistributionではBitcoinが高評価となる。
13. ただしWallet = 人ではない
この指標には重大な測定限界がある。
例えば取引所walletは、
- 100万人の利用者
- 1つの巨大address
として見えることがある。
逆に一人のwhaleが複数walletへ分散していれば、複数主体に見える。
つまり、
address concentration ≠ beneficial ownership concentration
である。
したがって、
SOL供給の80%を少数の個人が所有している
と直接結論づけることはできない。
Wallet distributionは、あくまで保有集中度のproxyである。
14. BTCのTor 63%にも測定限界がある
Bitcoin nodeの大きな割合がTor経由であることは、追跡耐性を高める。
一方でTorを使うと所在地が分からない。
したがって、
Tor nodeが多い = 世界各地に均等分散
とは証明できない。
ただし、
- 政府
- ISP
- ホスティング業者
- 攻撃者
からnode所在地を把握されにくいという意味では、coercion resistanceが高まる。
したがって、これは単純なgeographic decentralizationというより、
geographic + identification resistance
として読むほうが正確である。
15. Ethereumが中間に位置する理由
Ethereumが多くの項目でBTCとSOLの中間に位置するのは、偶然ではない。
設計思想として、
Bitcoin:
- 低負荷
- 高検証性
- 低throughput
Ethereum:
- programmability
- moderate hardware
- L2 scaling
Solana:
- high hardware
- high throughput
- low latency
という明確な違いがある。
EthereumはL1ですべての性能を引き上げるのではなく、
L1 decentralizationをある程度維持しながら、L2へscalingを逃がす
方向を採用している。
Solanaのmonolithic high-performance L1思想とは異なる。
16. Firedancerが改善するもの
SolanaではFiredancerなど複数validator clientが存在することで、client monoculture riskを低減できる。
例えば全validatorが同一softwareを使っている場合、
software bug → validator群が同時停止
というsystemic riskが生じる。
clientが複数あれば、一つのclientに重大bugがあっても他clientが稼働を継続できる可能性が高まる。
したがってFiredancerは、
software decentralization
を改善する。
17. Firedancerが改善しないもの
一方Firedancerは、
- 高価なhardware
- データセンター依存
- 地理集中
- 高い回線要求
を直接は解決しない。
したがって、
- software decentralization:改善
- physical decentralization:必ずしも改善しない
という点を分けて考える必要がある。
18. 総合スコアには価値判断が含まれる
「BTC > ETH > SOL」と総合評価する場合、どの指標をどれだけ重く見るかという価値判断が入る。
例えば、
- sovereign settlement layer
- high-value store of value
では、
- 独立検証
- censorship resistance
- geographic resilience
を重視するだろう。
一方、
- high-frequency trading
- games
- consumer payments
- onchain orderbook
では、
- latency
- throughput
- execution cost
がより重要になる。
したがって、
BTCが客観的に絶対的に最も分散している
という意味ではなく、
この6指標の枠組みではBTCが最も分散側に位置する
と理解すべきである。
19. CGTAによる構造的再評価
以下はARK/Glassnode公式スコアではなく、CGTAによる概念整理である。
| 項目 | BTC | ETH | SOL |
|---|---|---|---|
| 自宅から独立検証 | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ |
| ブロック生成主体分散 | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★★ |
| 地理的耐障害性 | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ |
| 所有分散 | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ |
| client resilience | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ |
| 台帳再構築容易性 | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ |
| throughput | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
これを一言でまとめると、
Bitcoin
検証者の主権を最大化
Ethereum
programmabilityと分散性の妥協点
Solana
block producerを多数化しつつ、高性能hardwareへ集約
となる。
20. 5段階シナリオ:2030年前後の分散性競争
以下はCGTAによる推測である。
| シナリオ | 推定確率 | 展開 |
|---|---|---|
| S5 | 15% | SOLのhardware負荷低下、client多様化、DC地理分散が進みBTC/ETHとの差を大幅縮小 |
| S4 | 30% | BTCは検証性、ETHはclient/L2、SOLはvalidator分散という三者三様の強みが定着 |
| S3 | 35% | 現在構造が継続。総合分散性はBTC > ETH > SOL、性能はSOL > ETH > BTC |
| S2 | 15% | cloud・staking provider・DC集中が進み、見かけのvalidator数と実質分散性が乖離 |
| S1 | 5% | 規制・cloud障害・client bugなどでインフラ集中リスクが実際のnetwork disruptionとして顕在化 |
現時点ではS3-S4が中心シナリオと考える。
21. この研究をどう読むべきか
この報告を、
BTCが勝ち、SOLが中央集権
と読むのは浅い。
より重要なのは、
Bitcoin
誰でも検証できることによる分散
Ethereum
software・execution・stakingを多層化することによる分散
Solana
block production主体を多数化することによる分散
という、異なる3種類の分散モデルが明瞭になった点である。
Solanaは特に興味深い。
- validator hardware参加障壁は高い
- しかしNakamoto coefficientは19で3チェーン最高
という、一見矛盾する特徴を持つ。
これは、
「誰でもvalidatorになれるか」
と
「現在存在するvalidator間でstakeが分散しているか」
が別の問題だからである。
22. CGTAの結論
ARK × Glassnodeレポートの最大の価値は、「Bitcoinが1位」という順位そのものではない。
最大の価値は、
Decentralizationを1変数ではなく多変数問題として扱った
点にある。
ブロックチェーンの分散性は、少なくとも、
- ownership
- validation
- block production
- geographic distribution
- provider concentration
- software diversity
- exit freedom
- historical reconstruction
の複数層に分解して考える必要がある。
この枠組みを使えば、今後、
- Cardano
- Avalanche
- Sui
- Polkadot
- Hyperliquid
なども同じ物差しで比較できる。
特にCardanoは、
- SPO分散
- 比較的低いnode要件
- liquid staking
- permissionless delegation
- on-chain governance
という特徴があり、BTC・ETH・SOLとは異なる分散モデルを示す可能性が高い。
したがって次の分析としては、ARK × Glassnodeの6指標をそのまま使って、
BTC / ETH / SOL / ADA
の4チェーン比較を行うと、Cardanoの「分散性」がかなり明確に可視化できると考える。
Fact Check
BITTIMES記事の主要数値は、確認できた範囲ではARK Invest × Glassnodeの一次資料・Glassnodeデータと概ね整合している。
ただし以下の3点には注意が必要である。
- Nakamoto係数は同じ閾値ではない
- BTC:51% hash rate
- ETH:33% stake
- SOL:33% stake
- Wallet分布は実質所有者分布ではない
- exchange custody
- omnibus wallet
- whale wallet分割 などにより、address-based dataには限界がある。
- 総合分散性は指標選択・重み付けに依存する
- store of value
- settlement
- payments
- DeFi
- trading など用途によって最適な分散性の形は異なる。
出典・情報源
- ARK Invest × Glassnode, "The Decentralization Spectrum", 2026-09-01
https://research.glassnode.com/ark-invest-glassnode-the-decentralization-spectrum/
- Glassnode Studio, Supply Distribution Relative
https://studio.glassnode.com/charts/addresses.SupplyDistributionRelative
- Glassnode Studio, Supply By Wallet Size
https://studio.glassnode.com/charts/breakdowns.SupplyByWalletSize
- BITTIMES, "BTC・ETH・SOLの「分散性」6指標で評価|ARK × Glassnode", 2026-09-02
https://bittimes.net/
- CryptoTimes.io, secondary coverage of ARK × Glassnode decentralization report
https://www.cryptotimes.io/
- Solana Compass, secondary coverage of the report
https://solanacompass.com/
更新日
2026-09-04 JST