OBSERVATION NOTE / MDFOOB-HU
Bitcoin BIP-110フォーク――少数派チェーン分岐が示したBTCガバナンスの実像
2026年8月のBitcoin BIP-110少数派チェーン分岐を、技術仕様、マイナー支持、チェーン停滞、社会的・経済的コンセンサスから整理します。
はじめに
2026年8月、Bitcoinで久しぶりに明確なチェーン分岐が発生した。中心にあったのが BIP-110(Reduced Data Temporary Softfork / RDTS) である。
ただし、この出来事を「BitcoinがBitcoin Cash誕生時のように二つの有力チェーンへ分裂した」と理解するのは適切ではない。
今回起きたのは、より正確には、
BIP-110を強制する少数派ノードが、本流Bitcoinのブロックを無効と判定し、自ら少数派チェーンへ分岐した事象
である。
分岐後もBitcoin本流は通常通りブロック生成を継続した一方、BIP-110側はわずか2ブロックを生成した後、極端に低いハッシュパワーと高い採掘難易度のため停滞した。
この事件はBIP-110そのもの以上に、「Bitcoinでは誰がプロトコルのルールを決めるのか」を可視化した点で重要である。
1. BIP-110とは何か
BIP-110は、Bitcoin上に保存できる任意データを一時的に制限することを目的とするコンセンサス変更案である。
背景にはOrdinalsやInscriptionsなどを含む、Bitcoinブロックチェーンを金融取引以外のデータ保存にも利用する動きがある。
BIP-110支持側には、
- Bitcoinの主要用途は価値移転・通貨であるべき
- 大量の任意データ保存はブロックスペースを圧迫する
- フルノード運用負荷やUTXO・履歴データ肥大化につながりうる
- 非金融データの保存をコンセンサスルールで抑制すべき
という考えがある。
一方、反対側には、
- 有効な手数料を払う取引の用途をプロトコルが選別すべきではない
- 「望ましい用途」を開発者や一部ユーザーが定義するとBitcoinの中立性を損ねる
- フィルタリングはmempool policyで行うべきで、consensus ruleに持ち込むべきではない
という考えがある。
BIP-110は恒久変更ではなく、原則1年間の時限的soft forkとして設計されている。
2. なぜsoft forkなのにチェーンが分裂したのか
soft forkとは、従来のルールよりも有効と認めるブロック・取引の範囲を狭くする変更である。
BIP-110を実行するノードは、特定条件を満たさないブロックを、
「BIP-110ルールでは無効」
と判断する。
しかし従来ルールのBitcoin Coreノードは同じブロックを、
「Bitcoinの既存コンセンサスルールでは有効」
と判断できる。
そのため、十分なマイナー支持を得ない状態でBIP-110ノードだけが新ルールを強制すると、
Bitcoin main chain
|
+-- 通常ノード
| 「非signal blockも有効」
|
+-- BIP-110 enforcing node
「非signal blockは無効」
|
+--> minority chainという分岐が成立する。
つまり、
soft forkだから必ず一本のチェーンのまま移行できるわけではない。
新しい厳格なルールを経済的多数派が採用しなければ、そのルールを実行した側が少数派チェーンになることがある。
3. block 961,632で何が起きたか
BIP-110では、通常のBIP9より低い 55% のマイナーシグナリングで早期lock-inできる設計になっていた。
しかしblock 961,632直前の2,016ブロックのうち、BIP-110をsignalしたのは 51ブロック、2.53% にとどまった。
2026年8月8日、Bitcoinが block 961,632 に到達すると、BIP-110 enforcing nodeはmandatory-signaling phaseへ移行した。
ここからBIP-110ノードは、BIP-110をsignalしないブロックを拒否する。
Bitcoin本流では非signal blockが生成され、そのブロックを通常ノードは受理した。一方、BIP-110側では別の961,632が生成され、チェーンが明確に分岐した。
4. なぜBIP-110チェーンは止まったのか
BIP-110側は分岐後、
- block 961,632
- block 961,633
の2ブロックを生成した後、事実上停滞した。
理由はProof-of-Workの難易度調整構造にある。
分岐直後のBIP-110チェーンは、Bitcoin本流と同等の非常に高い採掘難易度を継承している。しかし、そのチェーンを掘るハッシュパワーはごく少数だった。
概念的には、
Bitcoin main chain
高いdifficulty
+ ほぼ全hashrate
= 約10分間隔で継続
BIP-110 minority chain
同じ高いdifficulty
+ 極小hashrate
= ブロック生成が極端に遅延となる。
Bitcoinの難易度は基本的に2,016ブロック単位で調整されるため、ハッシュレートが急減しても直ちに採掘難易度は下がらない。
これはBIP-110支持チェーンにとって致命的だった。
5. 「Bitcoinが二つに割れた」のか
技術的にはチェーン分岐は発生した。
しかし、経済的Bitcoinが二つに分裂したとは言いにくい。
| 項目 | Bitcoin本流 | BIP-110側 |
|---|---|---|
| block 961,632以降 | 正常継続 | 分岐 |
| マイナー支持 | 圧倒的多数 | 約2.5%のsignalから開始 |
| ブロック生成 | 継続 | 2ブロック後に停滞 |
| liquidity | BTCとして既存市場維持 | 独立市場は極めて限定的 |
| wallet / exchange | BTC本流を継続 | 広範な採用なし |
| 経済的コンセンサス | 圧倒的多数 | 少数派 |
Bitcoin Cashのように、十分なハッシュパワー、取引所、ウォレット、ユーザー、独立した市場価格を持つチェーンが形成されたケースとは大きく異なる。
したがって今回の事象は、
Bitcoinの有力な恒久分裂というより、少数派UASFの実地失敗例
として理解するのが妥当である。
6. Michael Saylorの主張が示したもの
Michael SaylorはBIP-110について、直前のマイナーsignalが約2.6%しかない以上、広範な支持を得ていないとの見解を示した。
この議論の核心は、Bitcoinではソースコードを書き、BIPを登録し、ノードソフトウェアを配布するだけではプロトコル変更は成立しないという点にある。
Bitcoinの実効的コンセンサスには、
- miners
- full nodes
- exchanges
- wallets
- custodians
- merchants
- developers
- holders
- liquidity
など、多数の主体が関与する。
したがって、
チェーンを作れることと、そのチェーンがBitcoinとして経済的価値を獲得することは別問題
である。
BIPリポジトリに掲載されていること自体も、Bitcoinコミュニティがその提案に合意したことを意味しない。
7. 今回の本質――Bitcoinガバナンスの実地実験
BIP-110は単なる「Ordinals規制論争」ではない。
より重要なのは、
Bitcoinのルール変更に最終決定者はいない
という構造が再確認されたことである。
Bitcoinでは概ね、
提案
↓
BIP
↓
実装
↓
node operators
↓
miners
↓
wallet / exchange / users
↓
economic consensusという分散した社会的プロセスによって変更が成立する。
BIP-110支持者は UASF(User Activated Soft Fork) の考え方を使い、
「マイナーが十分にsignalしなくても、ユーザー側ノードが新ルールを強制する」
ことを試みた。
しかし今回は、新ルールを支える経済的・採掘的多数派を形成できなかった。
その結果、
本流を変えるためのUASFが、本流ではなくUASF側を切り離した。
ここに今回の歴史的意味がある。
8. Cardanoとの比較
BWtakeのDRep視点では、BitcoinとCardanoのガバナンス構造の違いが非常に明瞭に見える。
| 観点 | Bitcoin | Cardano |
|---|---|---|
| ガバナンス | 社会的・経済的コンセンサス | オンチェーン制度 |
| 代表制度 | 原則なし | DRep |
| プロトコル承認 | node / miner / ecosystemの採用 | DRep / SPO / CC等 |
| ルール | 慣行・BIP・実装 | 憲法・CIP・オンチェーン手続き |
| 少数派の拒否 | fork / exit | vote / constitutional process |
| 最終的な力 | economic majority | 制度化されたstake-based governance |
一言で表現するなら、
Bitcoinは「exitによるガバナンス」、Cardanoは「votingによるガバナンス」
という対比が成立する。
もちろんBitcoinにもユーザー・ノード・マイナー間の強力なチェック&バランスがあり、Cardanoにも社会的合意が必要なので完全な二分法ではない。
それでもBIP-110事件は、両者の設計思想の違いを観察する非常に良い事例になった。
9. 今後の5段階シナリオ
以下の確率は市場データではなく、2026-08-17時点の情報を基にしたCGTAの推定である。
| Scenario | 展開 | 推定確率 |
|---|---|---|
| S5 | BIP-110論争を契機に、任意データ問題についてより広範な合意を得た改善策が形成される | 15% |
| S4 | BIP-110自体は実質終了し、Bitcoinガバナンスの重要な実証例として残る | 55% |
| S3 | 少数派コミュニティが別チェーンまたは新方式として再編する | 20% |
| S2 | 新たなUASF運動が起こり、Bitcoin内の対立が長期化する | 8% |
| S1 | 大規模マイナー・取引所を巻き込む本格的なBitcoin分裂へ発展する | 2% |
現時点の中心シナリオは S4 と考える。
10. 結論
BIP-110事件は、Bitcoin本流の安全性が崩壊した事件ではない。
むしろ逆に、
圧倒的な経済的・採掘的支持を持たないコンセンサス変更は、本流を変えるのではなく、変更を強制した側を本流から切り離しうる
ことを実地で示した。
Bitcoinには憲法もDRepも投票ポータルもない。
それでも、
- software
- node
- hashpower
- liquidity
- market
- users
が複雑に牽制し合うことで、変更に極めて高い社会的ハードルが設けられている。
BIP-110の少数派チェーン分岐は、その「明文化されていないガバナンス」を観察できる貴重な事例だった。
そしてCardanoとの比較では、ブロックチェーンのガバナンスには、
拒否して分岐することで意思を示すモデル
と、
制度内部で投票し意思を集約するモデル
という大きく異なる方向性があることが見えてくる。
この違いは、今後ブロックチェーンが単なる決済ネットワークから社会的インフラへ発展していく際に、ますます重要になるだろう。
Fact Check
- BIP-110の正式名称:Reduced Data Temporary Softfork
- BIPステータス:Draft(2026-08-17確認)
- 早期lock-in閾値:55%(1,109 / 2,016 blocks)
- mandatory signaling開始:block 961,632
- 直前2,016ブロックのsignal:51 blocks、2.53%
- 分岐側で確認されたブロック:961,632、961,633
- 分岐側:その後停滞
- Bitcoin本流:通常運転を継続
Sources
- Bitcoin BIPs — BIP-110: Reduced Data Temporary Softfork
https://github.com/bitcoin/bips/blob/master/bip-0110.mediawiki
- Bitcoin BIPs repository — BIP process / status
https://github.com/bitcoin/bips
- Bitcoin Optech Newsletter #411, 2026-06-26
https://bitcoinops.org/en/newsletters/2026/06/26/
- CoinDesk, “Bitcoin hits block 961632 as the controversial BIP-110 soft fork enters mandatory signaling”, 2026-08-08
https://www.coindesk.com/tech/2026/08/07/frame-bitcoin-s-bip-110-enters-mandatory-signaling-with-less-than-3-miner-support
- Cointelegraph, “BIP-110 Bitcoin branch stalls after two blocks as gap widens”, 2026-08-09
https://cointelegraph.com/news/bitcoin-bip-110-branch-stalls-miner-support
- Michael Saylor, X post on BIP-110 miner signaling
https://x.com/saylor/status/2086057411056447861
- BIP-110 project site — deployment design / signaling
https://bip110.org/
Bitcoinフォーク後の資産・淘汰・希少性――BIP-110が示した「変わらないこと」のガバナンス
はじめに
BIP-110をめぐるBitcoinの少数派チェーン分岐を見ると、単なる「フォークが起きた」という技術ニュース以上の論点が見えてくる。
重要なのは、次の3点である。
- 少数派は、自分たちが本流から分離する可能性を理解していたのか
- 分離した少数派チェーン側の資産は消失したのか
- Bitcoinは今後も、プロトコル変更のたびに「どちらがBitcoinとして生き残るか」というbetを続け、そのたびにBTCの希少価値が高まるのか
この3点を整理すると、Bitcoinの価値は単純な「2,100万枚」という供給上限だけでは説明しきれないことがわかる。
Bitcoinには、
数量としての希少性
だけでなく、
ルールを変更すること自体が難しいという制度的希少性
が存在する。
BIP-110は、この第二の希少性を非常にわかりやすく可視化した事例だった。
1. 少数派は「こうなる」と知っていたのか
結論から言えば、
BIP-110の設計者や技術的支持者は、十分な支持が集まらなければチェーン分岐が起こること自体は理解していたと考えるのが妥当である。
ただし、
分岐側が極端な少数派となり、2ブロック程度でほぼ停滞するところまで全支持者が具体的に予測していたかは、確認できない。
というのが正確な整理になる。
1.1 分岐は仕様上、予測可能だった
BIP-110では、mandatory signaling開始後、BIP-110を実行するノードが一定条件を満たさないブロックを無効とみなす。
一方、従来のBitcoinノードは、そのブロックを既存コンセンサス上「有効」と判断できる。
したがって、
BIP-110 node
「このblockは無効」
↓
Bitcoin Core node
「このblockは有効」
↓
chain splitという分岐は、仕様を理解していれば予測できる。
つまり今回の分岐は、偶発的なソフトウェアバグではない。
1.2 むしろ「分岐リスクを承知してルールを強制する」のがUASF
UASF(User Activated Soft Fork)は、
マイナーの十分なシグナリングがなくても、ユーザー側ノードが新しいルールを強制する
という考え方である。
したがって、UASFには元来、
「経済的多数派が自分たちについてくるかどうか」を試す側面
がある。
十分な支持を獲得できれば本流ルールを変えられる。
しかし支持を獲得できなければ、
ルールを強制した側自身が本流から離脱する
ことになる。
BIP-110は後者になった。
1.3 何が想定以上だった可能性があるのか
分岐そのものは想定可能だったが、BIP-110側の実際のハッシュレート支持は極めて小さかった。
その結果、
- 高いBitcoin難易度を継承
- 採掘ハッシュレートはごく少数
- ブロック生成速度が急低下
- 2ブロック程度で実質停滞
という状態になった。
したがってCGTAの整理は、
「splitは想定内。split後の圧倒的劣勢は、一部支持者にとって想定以上だった可能性がある」
となる。
これは推測を含む。
2. 少数派チェーン側の資産は消失したのか
結論は、
消失していない。
である。
ただし、
存在することと、経済価値を持つことは別である。
ここが重要である。
3. フォークするとUTXOはどうなるのか
フォーク地点より前のBitcoin履歴は、両方のチェーンで共通している。
そのため、フォーク前に1 BTCを所有していた秘密鍵は、理論上、分岐直後には双方のチェーン上で同じUTXOを支配する。
概念的には、
fork前
1 BTC
|
+----------------+
|
chain split
|
+----------+----------+
| |
Bitcoin main minority chain
1 BTC 1 fork-coinとなる。
ただし、これは
「資産が2倍になった」
という意味ではない。
4. 価値はブロックチェーンではなく市場が決める
フォークコインが経済価値を持つには、少なくとも、
- miners
- nodes
- exchanges
- wallets
- custodians
- liquidity providers
- merchants
- users
- investors
などが、そのチェーンを利用する必要がある。
したがって、
UTXO exists
≠
market value existsである。
少数派チェーンにUTXOが残っていても、
- 取引所が扱わない
- 市場価格が形成されない
- 送金先がない
- ウォレット対応が乏しい
- liquidityがない
のであれば、
技術的には存在するが、経済的にはほぼ使えない資産
になる。
BIP-110側の資産についても、
消えたのではなく、独立した経済圏として十分な価値を獲得できなかった
と表現する方が正確である。
5. フォーク時に注意すべきreplay risk
フォーク後のもう一つの問題がreplay attackである。
分岐直後は、両チェーンが同じ過去履歴と同じ鍵体系を持つため、片方のチェーンで署名した取引が、もう一方でも有効になる場合がある。
BTC mainで送金
↓
signed transaction
↓
minority chainでも再利用可能となれば、
本流BTCだけを送ったつもりが、fork側資産まで一緒に動いてしまう
可能性がある。
そのため、本格的なハードフォークでは通常、
- replay protection
- coin splitting
- chain-specific transaction rules
などが重要になる。
BIP-110のような少数派チェーンでも、custody事業者にとっては無視できない論点である。
6. Bitcoinは今後も「生存を賭けたbet」を続けるのか
この問いには、
ある意味でYES
と答えられる。
ただし、
「定期的にチェーンが分裂し、そのたびに勝者が生き残る」
という単純な意味ではない。
より正確には、
重要なルール変更案が出るたびに、Bitcoin ecosystem全体が「どのルールセットをBitcoinとして扱うか」を選択する
という意味である。
Bitcoinには、CardanoのDRep投票のようなformal governance制度が存在しない。
その代わり、
proposal
↓
BIP
↓
implementation
↓
node adoption
↓
miner adoption
↓
exchange / wallet adoption
↓
economic consensusというプロセスで事実上の意思決定が行われる。
ここでは、
コードを書いた人も最終決定者ではない。 マイナーも単独では最終決定者ではない。 ノード運営者も単独では最終決定者ではない。
最終的には、
どのチェーンに経済主体が残るか
でBitcoinの本流が形成される。
この意味では、Bitcoinは重要なルール変更のたびに小さな「market referendum」を行っているとも言える。
7. フォークのたびにBTCは希少になるのか
ここは明確に、
NO
である。
Bitcoin本流の供給上限は、フォークが発生しても変化しない。
Before fork
BTC max supply = 21M
After fork
BTC max supply = 21Mである。
したがって、フォークによって
21M → 20M
のようにBTCが物理的に減少するわけではない。
8. むしろ「Bitcoin系資産」は増える
フォークすると、
BTC
+
fork assetという構造になる。
したがって「Bitcoinの履歴から派生したトークン総数」という意味では、むしろ資産種類は増える。
Bitcoin CashやBitcoin SVが典型である。
それでもBTC本流の希少性が維持されるのは、
市場がBTCをBitcoin本流として認識し、他のfork coinを別資産として扱うから
である。
9. それでもフォークを生き延びることに価値はあるのか
ここからが重要である。
フォークそのものがBTCの数量的希少性を増加させるわけではない。
しかし、
ルール変更に失敗した側が本流から排除されることを市場が観測する
ことで、
Bitcoinの既存ルールは簡単には変更されない
という信頼が強まる可能性がある。
これはBTCの数量的希少性とは別の価値である。
10. 二種類のBitcoin希少性
Bitcoinの希少性は、少なくとも二層に分けて考えることができる。
10.1 Monetary Scarcity
第一は、
最大供給量2,100万BTC
という数量制約である。
これはBitcoinの最も有名な希少性である。
10.2 Institutional Scarcity
第二は、
その供給ルールや基本ルールを変更すること自体が極めて難しい
という制度的希少性である。
Bitcoinに中央銀行やCEOはいない。
したがって誰かが、
「2,100万枚を2,200万枚に増やそう」
と提案しても、そのコードを書くだけでは何も起きない。
必要なのは、
- developers
- nodes
- miners
- exchanges
- wallets
- custodians
- users
- capital
という巨大なecosystemの合意である。
そして十分な合意が得られなければ、
変更案ではなく変更を支持した側がforkとして切り離される
可能性がある。
これは、
Scarcity of Rule Change
すなわち、
「ルール変更そのものの希少性」
と捉えることができる。
11. Lindy Effectとの関係
この構造はLindy Effectとも相性が良い。
Lindy Effectとは概念的には、
長期間生き残った非消耗的な制度・文化・技術ほど、将来も生き残る期待が高まる
という考え方である。
Bitcoinでは、
重大な対立
↓
fork threat
↓
market test
↓
BTC main survives
↓
rule persistence observed
↓
future confidence risesという経験が積み重なる可能性がある。
したがって、
「フォークしたからBTCが希少になる」
のではない。
より正確には、
「変更圧力を受けても既存ルールが維持されたという観測が積み重なることで、Bitcoinの制度的耐久性への信頼が強くなる可能性がある」
ということである。
これは経済的解釈であり、BTC価格上昇を保証するものではない。
12. Bitcoinは淘汰を繰り返してきた
Bitcoinは過去にも、
- block size war
- SegWit
- Bitcoin Cash
- Bitcoin SV
- Taproot
- Ordinals
- arbitrary data debate
- BIP-110
など、多数の技術的・政治的対立を経験してきた。
そのたびに、
「何をBitcoinと呼ぶのか」
という問いが市場に突きつけられてきた。
概念的には、
Bitcoin ecosystem
|
+-- rule A
|
+-- rule B
|
+-- rule C
|
v
economic selection
|
+--> BTC main
|
+--> minority forkという進化過程として見ることもできる。
13. ただし「試練が多いほど価値が上がる」とは限らない
ここには注意が必要である。
Lindy Effectを単純化して、
「フォークが多いほどBitcoinは強くなる」
と考えるのは誤りである。
深刻な分裂が起きれば、
- hash power fragmentation
- liquidity fragmentation
- brand confusion
- exchange disruption
- replay risk
- security deterioration
- political fragmentation
などが発生する。
したがってフォークはBitcoinにとって、
耐久性を証明する試験
にもなり得る一方で、
実際にネットワーク価値を破壊するリスク
でもある。
生き残れば強い。
しかし、
常に生き残れることが保証されているわけではない。
14. BitcoinとCardanoの根本的な違い
この観点からBitcoinとCardanoを見ると、非常に興味深い対比ができる。
Bitcoin
Bitcoinは、
変更を困難にすることによって制度を守る
設計思想が強い。
重要な変更に合意できなければ、
fork / exit
という選択肢が残る。
Cardano
CardanoはVoltaire以降、
制度内部で変更案を審査し、投票し、憲法的手続きで意思決定する
方向へ進んでいる。
概念的には、
Bitcoin
disagreement
↓
economic contest
↓
exit / fork
Cardano
disagreement
↓
proposal
↓
DRep / SPO / CC
↓
voteとなる。
15. 「どう変わるか」と「変わらないこと」
両者を非常に単純化すると、
Cardanoは「どう変わるか」をガバナンスする。
一方、
Bitcoinは「変わらないこと」をガバナンスする。
と言える。
もちろんこれは完全な二分法ではない。
Bitcoinもsoft forkなどを通じて変化する。
Cardanoも社会的合意を無視して変更できるわけではない。
それでも両者の重心は明らかに異なる。
Bitcoinは、
変更のコストを極端に高くすることで信頼を作る。
Cardanoは、
変更するための制度を明文化することで信頼を作る。
この違いは、ブロックチェーンが社会インフラへ進化していく過程で非常に重要になる。
16. 今後の5段階シナリオ
以下は2026-08-17時点のCGTAによる推定であり、市場確率ではない。
| Scenario | Bitcoinの進路 | 推定確率 |
|---|---|---|
| S5 | 小規模なfork・対立を吸収し続け、変更困難性そのものが「デジタル金」としての信頼をさらに強化 | 35% |
| S4 | 大型変更を避けながら保守的に進化し、価値保存ネットワークとして安定 | 40% |
| S3 | L1はほぼ固定化し、技術革新の大半がL2・sidechain・off-chainへ移動 | 18% |
| S2 | 将来の大型アップグレードを契機に深刻な政治的対立と有力forkが再発 | 6% |
| S1 | 複数の経済的に有力な「Bitcoin」が恒久並存し、ブランドと流動性が大きく分裂 | 1% |
中心シナリオはS4である。
17. 結論
BIP-110事件から得られる重要な示唆は3つある。
第一に、
少数派は分岐可能性を理解していたと考えられるが、実際の圧倒的劣勢まで全員が想定していたかは不明である。
第二に、
少数派チェーンのコインは消失していない。UTXOは残るが、市場・流動性・インフラがなければ経済価値はほぼ成立しない。
第三に、
Bitcoinは今後も重要なルール変更のたびに経済的コンセンサスを試される。
しかし、そのたびにBTCの数量が減って希少になるわけではない。
むしろ重要なのは、
既存ルールを変更することの困難さが繰り返し観測されること
である。
Bitcoinの価値は、
21M supply cap
+
difficulty of changing the ruleという二重構造で考えると理解しやすい。
つまりBitcoinの希少性とは、
「BTCが少ない」だけではなく、「BTCを少なく保つルールを変更することが難しい」
という二層の希少性なのである。
BIP-110は、その第二層を実際のchain splitを通じて可視化した。
Fact Check / 注意点
- BIP-110は少数派ノードによるルール強制によりchain splitを生じ得る設計だった。
- fork前のUTXOは両チェーンで共通履歴を持つため、秘密鍵による支配権自体は原則として双方へ引き継がれる。
- fork assetの存在と市場価値は別問題である。
- BTC本流の最大供給量21Mはfork発生そのものでは減少しない。
- 「フォークを生き延びるほどBTC価格が上がる」という実証済みの因果関係はない。
- 「制度的希少性」「Scarcity of Rule Change」は本稿での分析概念であり、Bitcoin protocolの公式用語ではない。
- Lindy Effectとの接続は経済・制度論的な解釈であり、価格予測モデルではない。
Sources
- Bitcoin BIPs — BIP-110: Reduced Data Temporary Softfork
https://github.com/bitcoin/bips/blob/master/bip-0110.mediawiki
- BIP-110 project site
https://bip110.org/
- Crypto Finance — BIP-110 and the custody implications of a Bitcoin chain split
https://www.crypto-finance.com/bip-110-and-the-custody-implications-of-a-bitcoin-chain-split/
- Strategy — 110 Reasons BIP-110 Is a Bad Idea
https://www.strategy.com/media/articles/110-reasons-bip-110-is-a-bad-idea
- Bitcoin BIPs repository
https://github.com/bitcoin/bips
作成日: 2026-08-17 JST